第11話 再開と紹介

 PM6:00


 ベイツ・ジョーカーはエリア51にいた。半径6キロにも及ぶ広大な土地。それらをたかが2人が一ヶ月もの間独占する。それだけを聞くとなんとも馬鹿馬鹿しいな、とジョーカーは思った。

 小屋に入り手に持っていた武器を置く。さすがにこんな大荷物をパルテノン宇宙ターミナルへと持ち込む訳にはいかないので予め小屋に置いておくことにしたのだ。

 携帯I.E.Rを見る。刻々と変わるデジタル時計は【PM6:00】を示していた。


『さてと、そろそろ行くか』


 黒色の数字から目を離しジョーカーはリディール【汎用バイク】にまたがった。

 目指す場所はパルテノン宇宙ターミナル。

 甲高い音を立ててリディールは加速し、目的地へと向かって出発した。


 ―――


 PM7:30


《あと15分ほどで亜光速飛翔を終了し、パルテノン重力圏へと突入します。残り少しではございますが宇宙の旅をお楽しみください》


 真銀戦の襲撃から6時間、既に玲人はそれを昔のことのように思っていた。

 迷いを断ち切り、心の中に確固たる復讐の意思を築く。そして強くなることを決意するまでそう時間はかからなかった。

 もう幼かった自分はいない。

 死に接し、自身の無力さを知ることで一回り成長できた。初めての戦いによって無知なことに気づくことができたのはよかったのかもしれない。不意に窓の外を見る。外には漆黒が無限に続いており、何も見えない。だが、玲人には見えていた。遥か彼方で赤く光り輝く目的の星、パルテノンが。


 ―――


 PM7:45


《パルテノン重力圏へとはいるため、亜光速飛翔を終了し、手動操縦に切り替わります。次いで外の景色が見えるようになりますので着陸までの間神秘の惑星、パルテノンのその外観を心ゆくまでお楽しみください。当船へのご搭乗ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております》


 もうすぐで到着することを告げるそれを最後にアナウンスが再び流れることはなかった。

 窓の外には先ほどまで玲人にしか見えなかったパルテノンがその外観を全ての人に見せていた。それは先ほどまでのパルテノンと違い、淡く、優しい白色の光を放っていた。



 PM8:00


 遂に玲人の乗る飛翔船はパルテノン大気圏内に突入した。

 重力の大きさが上がったことにより旅客飛翔船は落下し再び速度が上がる。パルテノンを外周しながら少しずつ速度と高度を下げていった。

 ほどなくしてターミナルの滑走路が機内モニターに小さく映る。

 おお、と数人の乗客が驚きの声を出す。

 旅客飛翔船は滑空路に滑り込むように侵入した。

 ジェットが逆噴射し、ガクン、とスピードが落ちる。。

 ターミナルの滑空路と機体前輪が接触し、下から衝撃が伝わる。

 その時初めてパルテノンの重力が乗客を襲った。離陸時を思い出し、玲人は隣を見る。誰もいなかった。いるはずがなかった。それが、襲撃が現実であることを告げていた。


 しばらくして速度が完全に0になり、機体は静止した。搭乗口が開き、アナウンスから着陸を示す音楽が流れた。

 おもむろに乗客たちが立ち上がり、ぞろぞろと出口へと向かって行く。人の波にのまれながら、玲人達は旅客飛翔船をあとにした。



 PM8:10


 飛翔船はやや遅れてパルテノン宇宙ターミナルへと着陸した。それを見守る2人の人間。

 ジョーカーとシーナだった。

 飛翔船の搭乗口とターミナルの搭乗口が連結したのを確認するとジョーカーはシーナにリディール駐車場で待機するように言い、独り静かに歩き出した。


 旅客飛翔船とターミナルをつなげる搭乗口付近はマスコミでごった返していた。

 予備機の要請により、旅客飛翔船を襲った惨状が瞬く間に臨時宇宙ニュースに流れ、パルテノンに駐在していたマスコミらが翌日の一面のためにここに集まったのだ。

 最初に出てきた女性がマスコミに驚き、立ち止まる。もちろん貴重な情報源を逃すほどマスコミは馬鹿ではない。乗客達の出口を誰一人逃さぬよう取り囲み、我先にとマイクを乗客に向けていた。

 突破しようとした女性がマスコミに飲み込まれ、揉みくちゃにされる。彼らはまるで腹を空かした獣のように彼女を囲んだ。彼女は彼らが満足し、納得行くまで持っている限りの情報を吐き出さなければならなかった。

 続いてマスコミと乗客達がぶつかり合い、それを見た警備員が止めに入る。

 その混乱の合間を縫って2人、男がジョーカーに近づいてきた。

 ジョーカーは彼らを見ると顔をほころばせ、口を開いた。


『久しぶりだなコウジ! アース国際大学以来か?』

 突然声をかけられた浩二はすぐに声のするほうへと体を向ける。


『ああ、久しぶりだな。今回は私の頼みを引き受けてくれて助かった。お前のことだ、いつものように拒むかと思った』


『はは! 面白いことをいう。 俺は戦友の頼みはいつだって引き受けるさ!』


『まだ友人嫌いは治っていないのか?』


『ああ、友人なんてもん糞食らえだ!』


 その時思った玲人の疑問を浩二がさりげなく言う。


『じゃあ私も糞同然というわけか。参ったなこれは』


 茶化すような言い方だったがジョーカーはいつも通り真剣に説明をする。


『だからいつも"友人"と"戦友"は違うって言ってんだろ! これだからあまり言いたくな ねぇんだ』


『冗談だよ。それよりも、こいつが玲人だ。正一の子供で今は私が面倒を見てる』


『ショウイチの子か。その、残念だったな』


『ううん、大丈夫』


 玲人が取り繕ってはいるが、先ほどまでの軽快な雰囲気はなくなり、空気が重くなる。


『今度、正一の墓参りに行くんだ。よかったらジョーカーも来ないか?』


『ああ、また一緒に酒でも飲もうぜ』


『わかった。それで、玲人には見込みはあるのか?』


 浩二が聞いた。


 ジョーカーは玲人を一瞥し、小さくため息を吐いた。


『正直言って皆無だな。ショウイチの面影をはっきり受け継いでやがる。まあお前の血縁だ、やれるとこまでやったら開花するかもしれねぇなしな』


 そう言ってジョーカーは玲人を再び見て笑った。その笑い声が大きすぎたせいか警備員らに弾かれたマスコミが玲人たちに気づき、小走りでやってきた。それをジョーカーが睨み、牽制する。


『まぁここでもなんだ。裏にリディールを待たせてある。そこで話の続きをしようぜ』


 そう言ってジョーカーは出口へと進む。そのあとを浩二と玲人が追った。

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