第4話 決意

 十分後、浩二達が病室に戻って来た。

  体はどうだったの?

 僕のやりたいことはできるの?

 様々な疑問が浮かぶ中、口から出たのはあの疑問だった。

『あの声、壊したのは叔父さん達だよね?』

 そう、いつも自分の邪魔をしていた忌々しいあの声がなぜ消えたのか、どうやって消したか。玲人にとってはそれが一番気になっていた。


 多少の沈黙の後、浩二が口を開く。

『ああそうだ。だけれどよく聞け玲人、お前のやりたいこと、つまりは"あいつ"への復讐、それは限りなく不可能に近い。』

 予想だにしていない言葉が玲人の胸に深く突き刺さる。

 驚きに目が見開かれ今にも泣きそうになった。

『なんで?僕が弱いから?だったらなんでもする、僕は強くなる!』


 反論する。しかし、玲人を浩二は冷静に諭した。


『違う、そうじゃないんだ。まず第一に"あいつ"はテロ組織真銀戦の構成員であること。そして第二にお前の胸に輝いているプラセバがあるだろ、それがある限りお前に復讐なんてできないんだ』

『なんで? これは父さんが僕を逃がすために付けたものだよ? なんでこれのせいで復讐ができないの?』

 父の形見が否定されたことに不満を抱いた玲人は語気をつよくした。けれども浩二は遠慮せずに現実を突きつけてゆく。


『《緊急脱出システム》、この行動理論がプラセバには入っている。それがお前に対する危険接近をお前の視覚と感情から感知した時、自動で起動し、お前を全力で撤退、回避させるんだ。解除は不可能だ』


『なんで! どうして!』


 残酷すぎる現実に玲人は泣いた。

 許されない復讐。それは玲人にとって生きる目的を失うのと同義だったから。

 けれど、ふと本題に気が付いた。もともとの話はどうやってあの声を止めたかについてだったはずだ。

『じゃあなんで夢の中のあの声は一回止まったの……?』

 気まずそうに浩二が顔を歪める。

『プラセバの構造は知っているか?』

『……プラシボは知ってるけど、それは知らない……』

 何も知らない玲人に浩二が説明をする。

『プラセバはプラシボと違い、脳をハッキングし、体の行動権を目的遂行に支障が出ないように掌握する。お前の胸についているプラセバの掌握率はほぼ100%だ。動くのは眼球ぐらいだと思っていた方がいい。けれどもその眼球すら真銀戦との戦いに利用するならお前の全器官はプラセバに掌握されるだろう。使わない方が賢明だろうな。そしてなぜプラセバの効果を止めることができたのか、それはこいつのおかげだ』

 浩二が台に置かれていた小さな電気ショックパックをとり、玲人に見せる。

『この電気ショックパックは普通リチウムイオン電池を使用する。しかし、この電気ショックパックは核電池を使用したまがい物だ。もちろん最高電圧は致死量すれすれに設定してある。そしてお前の体に注射したマイクロボット。これら2つによってプラセバの脳ハッキングを止めることができるんだ。理論は簡単だ。プラセバのハッキングは電気を必要とする。つまりはコンピュ―タのハッキングと同じ原理だ。そこでプラセバのハッキング電気をこの電気ショックで強制的に相殺させる。でも足りない、残った電気が脳に到達する。そこでマイクロボットだ。これによって電気が到達した脳の部位を変形させリセットする。それでなんとか止めることができる。だが問題は変形が不可逆的なんだ。つまりは変形した部位は二度と戻らない。変形する部位は毎回微量だが、確実に使用とともに脳は変形する。そして時間制限がある。プラセバの電波が強すぎて核電池との相殺がどんなに頑張っても22秒間なんだ。超えると核電池がショ―トして使い物にならなくなる。それを超えてスイッチを押したなら阻止作用がマイクロボットのみになって脳の変形が倍のスピ―ドで進むことになる。連続使用をするつもりなら22秒間は超えないことだ。』

 浩二が長い説明を終える。青の時すでに玲人は喜びを隠せなかった。

 プラセバを止められる。復讐ができる。"あいつ"を殺せる。

 その事実だけが玲人の心の中で反芻する。はっきり言って、嬉しかった。


 6年の時を経て、玲人の心に復讐の炎が灯り、憎しみにまみれた心を煌々と照らしだし。


 そして時間は過ぎ、2週間後、玲人は国営病院を退院した。

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