第2話 目覚め

 家に帰り、扉をあける。妻は外出中なのか、部屋は薄暗かった。それを浩二は確認すると扉を閉め地下室へと向かう。


 地下室に行くとそこに家には不相応なほど巨大な箱型のパソコンが設置されていた。

 その電源をつけ、モニター画面を立ち上げる。

 次に浩二は自前の演算システムを構築し、自室に置いてあるI.E.R【情報収集装置】と連結させた。


 ーーー


 浩二は扉を閉め、自室へと向かった。

 部屋の左右には支部長時代の名残といわんばかりの書類が本棚に納められており、中央奥には6つのモニターが光り、常時宇宙国際ニュースを流していた。

 丁度I.E.Rの前に置いてある椅子に腰を下ろすとマウスを握り検索欄にプラセバと入力する。しかし、出てきた情報は少なく、何も得ることはできなかった。しかたなくホームに戻り小さく表示されている右隅の入力欄をクリックした。そしてパスコードを入力する。


《指紋判定、虹彩判定、生態コード判定、All clear unknown起動》


 スピーカーから流れた電子音声とともにモニターが反転し、真っ青の画面に検索欄が1つ浮かび上がる。不気味なほどに洗練されたその画面はI.E.Rとは違った雰囲気を醸し出す。」それは機密用I.E.R通称【unknown】が起動した証拠だった。


 unknownは検索欄にワードを入れるだけでそれに関する機密情報を知ることができるものであり、もちろん違法I.E.Rである。支部長であったころもやむをえない数回の使用しかしておらず、星間連合本部はおろか浩二の妻でさえも知らないことであった。


 検索欄にプラセバと入力する。するとunknownは瞬時にさまざま場所から情報を抜き取り、要約した結果を画面に表示させた。I.E.Rでは知ることができない研究資料やその類に当たる様々な資料が映し出される。


【高度医療端末、通称プラセバ、内蔵された針が人との接触を感知すると飛び出し寄生する。後、脳をハッキングし、支配権を人より剥奪、寄生主のバイタルチェックを行いながら体の最適化をしつつあらかじめ決められた行動理論に基づき寄生主を動かす。解除には任意の解除コードが必要。

 カザ歴205年の真蓋銀河統一戦線と星間連合との戦闘において星間連合側に甚大な被害をもたらしたため後に禁止技術となり、現在ではロストしている。なお、使用および製造は厳罰である。ただし、遺物はこの限りではない。また・・・】


 unknownの出した情報を浩二は全て読み終えた。

 そして浩二はプラセバの支配より脱却するための方法を模索し始めた。

 Unknownが出す様々な資料をもとに一つの方法を練り上げてゆく。そうして試行錯誤の末に生み出した方法の概要をあらかじめ連結させていた演算システムに入力し、成功率を算出させる。


《……理論構築完了………成功率100%しかし、強烈な副作用が確認されます。使用限度回数は0回、副作用が出ない使用回数はありません。使用すればするほど副作用は重くなります。》


 システムが算出した結果に浩二は満足した。

 完璧だ。副作用など問題ない。要はプラセバの起動を阻止さえ出来れば良いのだから。

 その方法を手元の携帯I.E.Rへと転送させると浩二は電話を出し、知人へと連絡した。


『工業用核電池を用意してくれ、それとマイクロボットも頼む』


 いきなりの電話にもかかわらず電話口の知人は二つ返事で快く浩二の頼みを承諾し、通話を切った。そして、浩二は玲人を目覚めさせるべく知人が経営する工場へと向かった。


 ーーー


 2週間後、昏睡中の玲人はジュピター国営病院のICU【集中治療室】へと運び込まれた。


 ICU内には事前に浩二が用意した核電池内蔵の電気ショックパックとマイクロボットが持ち込まれており、今から行われる行為が手術ではないことを示唆していた。


 電気ショックパックが玲人の胸に取り付けられ、静脈注射によってマイクロボットが体内へと入れられた。

 同時に担当医によって浩二の頭にヘルメットのようなものが取り付けられる。

 浩二は静かに目をつむった。成功してほしい。そう願いながら玲人を起こすタイミングを合わせるべくアクセスダイブが行われ、浩二の意識は暗い澱みへと潜っていった。


 ーー玲人精神内ーー


 目の前の"あいつ"が倒せない。どんなに刃を近づけようと、何度銃を放とうと、殺す前に無機質なあの声がいつも響く。なんやったって同じだった。ほら、また今度も。

 玲人がナイフを握りしめ"あいつ"へと近づく。

 するといつも通り無機質な声が響き始める。だが、今回のそれはいつもと違っていた。


《本体への危険接近を感知、撤タイ……カイヒ…………………》


 突然声が止まる。しかし、依然として体は自由のままである。

 その状況に玲人は歓喜した。

 それもそのはずである。

 何年間も殺せなかった"あいつ"を殺すことができるのだから。

 ため込んだ憎しみをぶちまけるように"あいつ"に近づき手に持ったナイフを首筋に当て、勢いよく切り裂いた。瞬間、動脈が裂け暖かな鮮血がほとばしる。


 そして……世界が反転し……





 玲人は夢から目覚めた。

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