第4話

『力こそ全てだ!!』


 まあ、よく耳にするフレーズ。


『弱者ごときに、語る資格など無い!!』


 どの時代も、どの国にも当てはまる思想ではなかろうか?


 強者が時代を創り、強国だけが大地ダイヤの歴史に名を刻むことを許される。


 よって、力による支配とは……そう、正義・或いは正道とは言えまいか?



 人々が住まう大地ダイヤの形状は、名前から少しは連想したであろう通り、ひし形である。


 大まかに分けて、左半分を魔族が制し、右半分は人族が治めていた。

 大まかという言葉を使用したには理由があり、大地ダイヤにおいて、このニ族以外は、興国の宣言を世界に行ってないからだ。


 広大な平地を必要とし、国家という組織の中で生きるニ族に対し、他の種族は、少人数での共同生活を好む為、そこに国という概念は無く、部・民・氏族といった小さな集まりになる。


 その集団は数知らず、山・森・野へと、大地ダイヤ中の至る所に存在し、ニ族が主張する領土の中に、彼らの住みかはひっそりと存在しているのだ。



 右半分の大地ダイヤに、人族が四つの国を営んでいた頃、左半分には、大・中・小と合わせて、数十の魔王が存在した。


 否、聞き間違いではない。

 魔王は数十人いたのだ。


 何故、それほど魔王が存在するのかと言うと、理由は簡単、領土持ちは全て魔王だからだ。


 同種と他種族との争いに疲弊し、同種四カ国協定を結び休戦を選んだ人族。

 それに対し、魔族は同種と他種族と争い続け、常に戦国時代の真っ只中。


 魔族間では、下克上・クーデター・革命・反乱・内乱なんてものは日常茶飯事。

 力なき者は領土を奪われ、下手すれば王の座さえも奪われるほどだ。


 領土持ちは王を名乗る為、魔王の数は常に変動している。



 では、全ての魔王が敵対しているのかと聞かれれば、そうではない。

 もちろん、魔王同士、手を結ぶことだってある。


 また、大・中・小と記した通り、魔王にもクラスが存在することから、大魔王・魔王・小魔王と置き換えて説明しよう。


 魔王を、一般的な王として説明するなら、大魔王と小魔王は主従関係にあたる。


 要は、国王と子爵の関係。


 広大な領土を持つ国になると、王一人では、当然ながら全土を管理し、把握する

ことは不可能である。

 その為、領土を分割し、主従関係を結んだ直臣の者を配置し守護させるのだ。


 従って、大魔王とは、魔王クラスの配下と広大な領土を持つ者のことを指し、小魔王とは、魔王クラスの力を持ちながらも、主君を持ち、仕えることを選んだ者を指す。


 しかし、世の中には、魔王クラスの力を持ちながらも、主従関係など結ばずに、食客やあぶれ者なる者も存在する。


 『傑士』と呼ばれる存在だ。


 特に、剣を扱うのに長けていた者は傑剣けっけんと呼ばれ、有名どころを挙げれば、まず最初に出てくるのは、ロウ・ブロードの名であろうか。


◆◇◆


 グリム・ルーラーは自領に、大敵である勇者が足を踏み入れたとの報告を、たった今、受けたばかりであった。


 領土が小さいとはいえ、それでもグリム・ルーラーは一国の主。

 ルーラー国の王、グリムは魔王である。


 ただ、戦死した親の領地を引き継ぎ魔王となった身で、自国の民や周辺の国からは余り認識されておらず、先代以降は、ずっと争い事を起こさなかったことから、グリムの実力のほどは未知とされていた。


 小国は何もかもが足りない。


 戦争をするにしてもそう。

 使える兵は限られてる為、グリムは領内の冒険者ギルドに自ら足を運び、緊急クエストと称し、徴兵の依頼とお金を払い、頭を下げたのだった。


 この時、ギルド内にいた冒険者の魔人は、情けない姿と、パッとしない王の顔を初めて目にしたと、後に、皆は口を揃えて言っている。


 また、ギルド側は、相手は王にも拘わらず、傲慢にも、グリムにステータスカードの提示を求めた。

 それに対し、あろうことかグリムは素直に応じ、躊躇いもなくステータスカードを提出したのである。


 瞬時に、グリムのステータスカードからデータを吸い上げ、魔族領全土の冒険者ギルドに、最新のグリムのデータが送り込まれた。


 カードを受け取り、事務手続きを担当したギルドの職員と、応接したギルドの長は、写し出されたグリムのデータを目に、暫し無言で固まることになる。


 なんと、グリムの能力値は全てがE判定。


 技能の枠には何も記されておらず、技も魔法でさえ、一つも記されていなかったのである。


 正に、『無能』。


 魔王でありながら、一般人ほどの弱さ。

 唯一、記されていたのは称号の欄だけ。


 『ポンコツ魔王』と。


 『では、宜しく』と軽く二言、グリムがギルドを後にして間もなく、ギルドの長は酷い目眩と激しい頭痛に見舞われ、堪らず頭を抱えたまま俯かざるを得なかった。


 ──あの男は、今の状況を本当に把握しきれているのか!?


 勇者は既にルーラー領内にいて、それを防ぎ止めれるほどの兵を国は持ち得ず、ほとんどが冒険者任せ。

 挙げ句の果てに、王は一般人並みの能力しかなく、かなりのポンコツときている。

 今、ルーラー領内ここにいる冒険者を全て向かわせたとして、果たして勝てるのか。


 ──勇者は誰だ!? 場合によっては国が滅ぶぞ!?


 このギルドの長は、人生で最悪の瞬間を目の当たりにしているのかもしれない。


 ──どうすればいい!?


 冒険者ギルドは国の管理下に置かれてない為、いくら王命であろうが強制することは難しく、原則、冒険者はそれに従う必要は全くない。


 ──グリムは先ほど扉から出たばかり、断るとすれば、まだ間に合う!!


 依頼を断ることは、もちろん可能だ。

 だが、一旦受けた依頼を今さら無かったことにするなど、当然ながらギルドの質を問われるのは間違いない。


 しかし、それは命があっての物種。

 死と質の二択しか無いのなら、誰だって生きることを選ぶはずだ。


 ──逃げるなら何処に!?


 依頼を断るならば、ルーラー領に留まる必要はない。

 但し、実害がないにせよ、ルーラーを拠点とする冒険者全員には、臆病者のレッテルが貼られることは免れぬであろう。


 どの選択肢を進んでも、結局はマイナスでしかない。


 高額で依頼を受けて、強い冒険者を送り出し、被害を最小限に抑えて、勇者を撃退もしくは殲滅する。

 理想は、やはり理想でしかないのか。


「ここのギルドは狭すぎやしねーか!?

 話が丸聞こえなんだよ」

「!?」

「なあ、さっきの話、本当か?」

「なっ!? あんたは!!」

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