第3話

 Na.マイティ・ルーラー Ag.15


 Se.男 Tr種族.半魔


 COB出生.セントラル Nat国籍.セントラル


 ステータス

 HP体力:E MP魔力:E STR強さ:E DEF防御:E


 DEX器用・命中:E AGI敏捷:E INT賢さ:E MND精神:E


 LUK:E


 技能

 剣技:E 魔力操作:E 算術:E


 技

 無し


 魔法

 無し



 称号

 しがない商家の息子 おじさんLOVER愛好家


 おばさんLOVER愛好家



◆◇◆


「ぬうぅぉぉおおお!!」


 マイティからカードを受け取ったロウは、記されていた内容を目にした途端、俯き、全身をプルプルと震させ奇声を轟かせた。


 マイティからは、ロウがどんな表情を浮かべてるかは、俯いてるせいで分からないが、恐らくというのはある。


「おじさん……分かっ──」

「マアァィイテェェィィイ!!」

「えっ!? 何!? 何なの!? って、……うっわ~」


 ──キッモ~


 勢いよく上げたロウの顔は、水という水が溢れた酷い状態で、特に尖らせたクチビルが、マイティに最悪な印象を付ける。


「ありがとぅ!!」

「っ!?」


 ──ぎょぇええええ!? 寄るな~!! クチビルが!! クチビルだけは!!


 マイティに戦慄が走る。

 落ち込んでいたかと思えば、ロウがいきなり立ち上り、ハグ&チューを求めて来たからだ。


「ど~、っせい!!」


 体を左右に振るフェイントが華麗に決まり、マイティはロウの魔の手を躱すことに成功した。


ぼん!? 何故、逃げる!!」

「何だよ、いきなり!! しかも、何なんだよ、ありがとうってさ!?」

「称号だ称号!! 俺はな──」

「称号って、しがない商家の息子のことだろ!? 全然、意味が分かんないよ!!」

「その下だ!! ほれ、ぼん


 ロウから投げ渡されたカードを、即、確認したマイティは凍りついた。


「……な、な、な、何だよ、コレ!? 何なんだよ、コレ!?」

「良いんだぜ、ぼん!! 皆まで言わずとも、俺はお前の本当の気持ちを──」

「止めろぉぉぉおお!! 何で!? あり得ないんだけど!? 前は無かったじゃん!?

 な……お、おじさん?」

「……はぁ」

「…………」


 ──もう、面倒くせ~。いちいち体操座りでさ、途方に暮れないでくれる?


「ち、違うんだ!! もう一つあったじゃない!? ぼ、僕が驚いてたのはそっちだよ!!」

「……もう一つ?」


 クルッ。


「う、うん。おばさんLOVER愛好家……」


 ムクリ。


 マイティは、ロウのお尻の片割れが持ち上がったことを感じ取った。

 てか、見えてるし、見えてるから。

 何かをスカす時みたいに、お尻を斜めにしているロウの姿を。


「ど、どちらかと言えば、僕はおじさんかな~」


 ──苦手な方だけど……


 シャッキーン!!


「そうかそうか!! おばさんアプトより俺のほうが好きか!? ぼん、そうなんだな!?」

「……そだね」

「勝った!!」

「ははは……」


 気を良くしたロウは、引きつるマイティを他所に、立ち上がると高々に拳を突き上げ勝利に酔った。


 もう、完全にスーパー勘違い野郎である。


「おじさん! ねえ、おじさんって!!

 踊んなくていいから、ステータスをちゃん見てよ!! ほら!!」

「あん? どれどれ……ほぉ!? じゃ、返す」

「えぇ!? それだけ!? ちゃんと見た!?」

「ああ、見たぜ……まあ、見事にオールEだな」


 ずっと、知らないふりをしていたのか。

 また、知ってても家族だから、ずっと言えずにいたのか。

 どちらにせよ、


「はぁ……おじさんさ、僕の先生になったのって、いつだったか覚えてる?」

「ま、まさか!? ぼん!! 俺を試しているのか!?」

「真面目に答えてよ!!」

「忘れる訳が無いだろう!! 六歳からだ!!」

「…………」

「だったら何だ!?──」

「無駄じゃない?」

「あぁ!?」

「こいつにはやる意味が無いって!!

 おじさん、九年間もやってさ、今まで本当に思わなかったの!?」

「…………」


 ──無言、って肯定かよ!? やっぱり無駄だったんじゃないか!?

 ……だったらさ、もういいだろ!? 惨めな思いなんてしたくないんだ!!


「お前、それでもグリムの息子か!?」

「は!?」

ぼん、お前は本当にグリム・ルーラーの息子か!? って俺は聞いてんだよ!!」

「…………」


 ──何言ってんだこいつ


 マイティのステータスカードにはハッキリと記されてある。


 称号として、グリム・ルーラーしがない商家の息子と。


 だからマイティには、ロウが声を張り上げるほど、自身の父親グリム・ルーラーをリスペクトする意味が全く分からなかった。


「あぁ!? どうなんだ!?」

「…………」


 先ほどから、マイティが無言なのは、ロウの言葉の意味を深く捉え、考え込んでいるからではない。


 怒っているのだ。

 この前読んだ書物の言葉を借りるなら、呆れを通り越して、激しく怒りがプンプンで○。


 ──お前だってグリム・ルーラーしがない商家の従業…員……いや、待てよ、そうかそれか!! 


 なんてゲスいんだと、マイティは震えた。


 ロウのあの無言は、焦りを意味する。

 九年間もみっちり修行をしたにもかかわらず、ランクは最低のE評価。

 しかも、技は一つも覚えられていない。


 もしかしたら、ロウは本当に自分の体しか見てなかったのかもしれないと、マイティはピンと来た。


 まず、ステータスカードを初めて見て、余りにも無能っプリに絶句。

 驚きを最小限に抑えたものの、堪らずカードを持主へと即行リバース。


 そして、責任を逃れるべく無い頭をフルに使い出すも、疑われ始めた為に声を荒らげ誤魔化したと……


 ──なんだよ……ビンゴじゃないか


 ロウだって、タダで先生をやってた訳じゃないはずだ。

 ロウは、無駄に払い続けていたと思われ、九年間分の給金の返済を求められるのを恐れ黙ってるしかない。

 だが、マイティはそのことに気づけなかった。


 だから、最後の言葉だ。


 お前の父親はあんなに偉いのに、何で息子のお前は何も出来ないんだ?

 俺は悪くない!! 出来ないお前が悪いんだ!!


 完全な開き直りである。

 そして、最後には雇い主にはゴマをすることを忘れないという、なんと完璧な終わり方か。


 ──負けた……


 マイティは膝から崩れ落ちた。


 ──まさか、おじさんに言い負かされる日が来るとは……


「いいか、ぼん? よく聞けよ……」


 マイティは、自ら負けを認めた。

 だが、大人げないロウは、マイティに容赦なく追い討ちをかけるのであった。

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