第12話
小説を書くというのは案外難しいものである。
一日中机と向き合って小説のアイディアを絞り出そうとしても、私は残念なことに想像力が豊かな方ではないのでなかなかうまくいかず、書けたのは十行程度。更に起承転結で成り立っているのが小説なのに、私は物語を構成するのが苦手なのである。
今日は小説のアイディアを考えるためにも近所の公園のブランコで揺れているのだけれど、いつもと違う場所に来てもあまり変わらないようだ。心地よいくらいの快晴、とノートにメモし、再び周囲を見渡す。普通に遊びに来た子供目線としてはただの近所の公園だが、別の目線、例えば鳥目線などから見たらまったく別のものになるのだろうと思うと、とても興味が湧く。
公園でのアイディア発想も限度に達し、私はブランコから立ち上がって公園の入口へと歩いて行った。夏。公園。散歩。平和。孤独。ありきたりな単語を頭に思い浮かべ文章を作ってみようと思ったが、途端に頭の中が真っ白になる。
やはり私は小説家になるべきではなかったのではないか。
そう思うと気が病み、公園の入口で座り込んで頭を抱える。心の底から大声で叫びたい気分だった。酒を飲んで、締切の迫った原稿用紙をビリビリに破り、マンションの二階から投げ捨てたい。そして大声で笑ってやりたい。
「そんなこと、出来るわけないのに……」
そう呟き、立ち上がって歩みを進めようとしたとき、白のロングスカートの端を引っ張られた。見下ろすと六、七歳くらいの男の子が丸い目でこちらを見上げていた。全体的に色素が薄い男の子で、肌の白さと目の灰色さで近付き難さがあった。
「どうしたの、迷子?」
「お姉さんは、迷子?」
逆に質問を返され、たじろいでしまった。なによりも大人のような表情に驚いた。
「迷子じゃないよ。君、お名前は?」
そう訊くと男の子は興味深そうにこちらを見てから言った。
「さくらさく。佐藤さんの佐に、普通の倉に、変な漢字で朔。佐倉朔だよ」
大体想像がついた。溜息が出る。
何を考えているのかわからない深い灰色の瞳が私を捕らえて離さない。唇を噛み締め、男の子の目線に合うようにしゃがみこみ、男の子の身体を抱き寄せる。拒むことなくすんなりと抱き締められた男の子の耳元で囁いた。「よく頑張ったね」
小学生にしては焼けてなさすぎる白い肌に、黄色いシャツの隙間からチラリと見えた痣、普通の小学生にはない異常な程の落ち着き具合、助けを求めるような弱い瞳。触れればすぐに壊れてしまいそうな細すぎる脚。
正直、そういうことには関わりたくなかった。__でも無理みたいだ。
私は男の子の手を取り、公園を出た。
原稿なんか破り捨ててやれ。小説なんかどうにでもなれ。
何故か溢れ出て止まらない涙を垂れ流しにしていると、男の子も長い間、抑え耐えていた感情が溢れ出たのか声を上げて年相応に泣きじゃくっていた。
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