第8話

 単刀直入にいうと、私は特定のものを殺してしまう能力があるようだ。

 2003年12月24日のクリスマス・イブにアメリカ合衆国に誕生した私は、研究者の父とお嬢様育ちの母の影響で成績優秀で容姿端麗だった。五歳まで普通の子供のように成長してき、その能力が発覚した六歳からは周りから非難と嫌がらせを受け、十四歳の今となっては内向的で人と接することが困難になってしまった。

 自然豊かな広い庭に、金魚の泳ぐ奇麗な池。所々に色彩豊かな花が植えられていて、庭を囲うように植えられている木には小鳥の小屋が取り付けられている。そこには毎年雄雌の鳥が来て繁殖するため、それが私の毎年の楽しみだ。

 別の方向の広い庭には白を基調とした巨大なプールが設置されていて、夏になると父がそれを使う。母はプールサイドのピーチパラソルの下で夏を楽しむ。私は年頃なのもあり、あまり使わない。今は秋なので、広いベランダの椅子に座り本を読みながら秋の情景と空気を楽しんでいる。開いていた本をパタンと閉じ、心地よい風の吹く中に身を任せる。薄く開いた目を気だるげに木の方へ向けると、一羽の小鳥が木の枝に乗っかって小さく鳴いていた。秋の柔らかい陽射しが小鳥へと差す。かわいいな、そう思った瞬間、その小鳥は雷が落ちたように身を固めて地面へと落下した。

 私は履いていたサンダルが片足脱げるのも気にせず、その小鳥の元に駆け付けた。小鳥は人形のように力なく横たわったまま一切動かない。切羽詰まりながらもポケットからハンカチを出して、小鳥を優しく包んで持ち上げ、開放されていた透明な扉から室内へ入る。自分の能力の為に揃えた救急セットを持ってき、できる限りの処置をしようとしたものの、小鳥はすでに息絶えていた。

 小鳥を鍵のついた、底に綿を入れた小さな箱に入れて、小鳥の来る木の下に埋葬した。自然な流れで埋葬したが実感は未だに湧かなく、ただ放心状態でリビングのソファーに崩れ落ちるように座った。

 私が殺してしまった動物はこれで126匹目。六歳から十四歳までの九年の間に、ハムスターから犬までの大きさの動物を約120匹も殺してしまった。しかも殺す前兆は分からず、先程の小鳥のよう突然身を固めるように死んでいく。何匹もの動物が死ぬのを見てるにも関わらず慣れない。動物が死んだ後は謎の空虚感に襲われ精神が病む。

「また難しい顔して、どうしたの」

 扉から入ってきた母親が私の隣に座って、身体をこちらに向けて端整な顔を近付けてくる。この世間知らずの箱入り娘の母はどこか楽観的であまり信用できない。私が動物を殺す能力があることを両親は知らない。

「なんでもないよ。それよりいい匂いがする」

 私はそう言って鼻を動かす。お菓子作りが趣味な母は待ってましたといわんばかりの顔で満面の笑みで言う。

「クッキーを焼いたの。これからケーキも焼くから、先に食べててね」

「うん、わかった。楽しみにしてる」

 私は母の持ってきたクッキーの山の皿を受け取り、ソファーの前にあるテーブルに置く。__まだ靄が掛かったように心が晴れない。

 私はいったいいつまで動物を殺し続けなければいけないのだろう。

 死ぬまでだろうか。

 それならば私が死んだ方がましなのではないだろうか。

 お腹の虫がくるると鳴いた。

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