第6話

 ハッピー、メリークリスマス!


 淡い空色のワンピースに真っ白なソックスと、これまた空色の靴。頭は毛先をくるくるに巻いたツインテールで、空色のリボンで結ばれている。

 鏡に映るいつもと違いすぎる自分に驚きながら、傍で仏顔で微笑んでいる丸眼鏡を掛けた白兎さんに掴みかかる。

「ここはいったいどこですか、この格好はなんですか」

 白兎さんは少し困ったように頭を搔き、脇に挟んでいた取扱説明書のようなものを開き、活字に長い爪を当てながら目を細めた。

「えぇっとですね……ここは不思議の国、という風に説明しろと記載されています。その格好は二人の家政婦が着替えさせたものですのでね、御安心を」

 とパタンとそれを閉じ、再び仏顔で微笑む。

「あなたには着替えてもらったことですし、そろそろご面会致しましょうか」

 え、ちょっと待って。

 私は現代の都会で都会人らしく生活していただけだが、高校の下校途中に突然意識を失い、目が覚めた頃にはこの格好でベッドに寝かされていた。

「あの、ご面会ってなんですか。誰とですか」

「あなたはとでもしておきましょうか。あ、ラン王子」

 白兎の嬉しそうな声と同時に、半分だけ開かれていた豪華な扉は全開にされ、そこから貴族の格好をした金髪の少年が入ってきた。白兎は丁寧に頭を下げてから出ていき、部屋に二人きりとなった。その少年は私の顔から足先までを舐めるように見てから、眉をぴくりと動かした。

「ふうん。なかなかいいんじゃない。特にこのリボン」

 少年はそう言って私の髪を結んでいるリボンを思い切り引っ張った。当然の如くリボンはひらりと床へ落ち、髪型は台無しになる。何を考えているのか、と必死の形相で少年を見やると少年は逆にこちらを睨んでき、いきなり平手で頬を打たれ、よろけてベッドに倒れる。

「僕に向かって次、その顔をしたらその時はわかってるね」

 と少年が言い、ネクタイを直してからさらに続けた。

「もうすぐ式が始まるんだから、僕の恥になるような格好では来ないでね。ついでに、僕さっきの髪型好きじゃないから」

 そう言い残し、少年は身をひるがえして部屋を出ていった。

 溜まっていた息を一気に吐き出し、まだヒリヒリと痛む頬を割れ物を扱うように触る。金の縁の鏡で頬を見ると、さっき打たれたにも関わらず赤く腫れていた。

 薄々思っていたことだが、数分後にはじまったさっきの少年との結婚式で確信した。

 私はこの不思議の国のという女性になってしまったようだ。

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