第3話
『悪いことをしたら、悪い報いがかえってくる 』
一つの意味では自業自得のような意味で使われる、この四字熟語。悪事を働かれる側の身としてこのようなやったらやり返されるという四字熟語が作られることには賛成なのだけれど、実際悪事を働く側に不幸が訪れる事例は十五年生きてきて一度も見たことが無い。私の場合もやり得だ。
私は小、中と仲間はずれやシカトなどの陰湿ないじめを受けていたため、高校は私立の女子校を受験したのだけれど不運なことに、中学卒業後に交通事故に遭い右足骨折、入学式に出ることが出来ず、高校でも孤立した。孤立しただけなら良かったのだけれど、上靴を隠されたり教科書を盗まれたり、などと小・中の頃と同じように陰湿ないじめがはじまったのが、二ヶ月前のこと。今は私物が何かしら一つ消えているのは当たり前のことになり、足を引っ掛けてきたりぶつかってきたりするようになった。
「あ、ごめんねえ。影薄すぎて気付かなかったあ」
「ブッ! マジ鼻くそ飛び出たんですけどお」
「きたなっ! ……ってか誰、こいつ。なんかずっとこっち見てんですけどー」
今すぐその汚い口を縫いつけてやりたい。
私は拳を強く握りしめ、その衝動を抑える。
男の前でも出しているであろうこの甘ったるい猫撫で声はこの世で一番嫌いな声だ。
__早くここを去ろう。
私は鉛のように重い足を一歩一歩踏み出し、その場を立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってくれなあい?」
その一言でやっと踏み出した足がピタリと止まる。
背後で動きがあると思った瞬間に、両腕を鼻くそ女ともう一人の女に掴まれ、嫌いな女の方を無理に向かされる。長い前髪の隙間からその女を見上げると、女は意地の悪い目をこちらに向け、真っ赤な口紅の塗った唇を意味ありげに歪ませた。
「あんたさあ、キモいから死んでくれなあい?」
わざとらしく小首を傾げる女のことを睨みつけると、女は前歯をキリキリと噛み合わせ、サディスティックな笑みを浮かべた。
「死ね」
あぁ、神様はいないんだ。
因果応報は人の理想なんだ。
どうかこの女達に不幸が訪れますように。
無力な私には、そう願うことしか出来なかった。
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