第2話

 夏はやはりアイスに限る。

 私が好きなのはガリガリ君コーラ味なのだけれど、私の住む田舎のスーパーにはなかなか売っていない。あるのはソーダ味と期間限定味とか。少し遠くの新しく出来たスーパーや隣町には売っているのだけれど、徒歩で行く気にはなれない。暑いし。でも今日は昨日の出掛けで買いだめをしたガリガリ君コーラ味がある。夏休みの燦々さんさん太陽の下、滅多めったに車も通らない坂道の上で優雅にガリガリ君コーラ味を食べている、こんなに幸せな人生は他にはないだろう。あぁ、幸せだあ。

 そこで唐突に被っている麦わら帽子を奪い取られ、何かと慌てて傍らを振り返る。そこには意地悪な笑みを浮かべた友人の悠人ゆうじんがいて、右頬だけにあるえくぼがいつも以上にかわいい。一つ年下の悠人は悪戯いたずら好きな中学二年生で十四歳。来年の三月に卒業する私の生まれたときからの幼馴染だ。

「麦わら帽子を早急に返しなさい」

「いやだね。……うわあ、またガリガリ君コーラ味食ってる」

「悠人には関係ないでしょ、早く返して。ンアーッ、熱中症になるって!」

 頭の頂点に容赦なくあたる日差しのせいで、髪が燃えるように熱い。麦わら帽子を取り戻すために必死で、存在を忘れていたガリガリ君コーラ味が溶けかけている。慌てて口の中に放り込み、自分が知覚過敏だったことを思い出し、途端にあたふたと地団駄を踏んだ。

「ばーか、返して欲しかったら捕まえてみろ」

 と悠人が麦わら帽子を振って舌を出して私を挑発し、背を向けて坂道を駆け下りて行った。口の中のガリガリ君コーラ味を悶えながら飲み込んで、後を追うように坂道を走り降りていった。

 前言撤回。夏はやはり青春に限る。

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