すばらしいくに

今村駿一

第1話 素晴らしい日

 とても晴れた良い日だった。

 春の陽気に誘われるかの様に、人がたくさん出てきて賑わっている。

 広島市の至る所が歩行者天国となっていて、様々なイベントがおこなわれていた。

 昼間から花火が上がり、街は華やいでいる。

 その華やいだ街を妹の美沙と二人並んで歩いていると、服の袖を引かれた。

「お兄ちゃん、綺麗な馬がいるよ」

 国道に沿った大きな公園の中で馬が二頭並んでいる。

 その馬に西洋の男性貴族の様な服装をした女の子が騎乗した。

「只今から、アンダルシア馬によるホースダンスをおこないます」

 アナウンスが紹介し馬が動き出す。

 今日はお祭りで広島市内の至る所、この様な催しをやっている。

「見ていこ、お兄ちゃん」

 美沙に引っ張られて公園の中に入った。

 立ち上がったり、お辞儀をしたり、お座りをしたり、と若い女性が大きな白馬を自在に操る様子は見事で、私達は感心しながら見入っていた。

 ショーが終わり盛大な拍手が送られた。

 白馬の上から女の子達が笑顔でそれに答える。

 国道から楽しげな音楽が流れてきた。

 パレードが来たようだ。

「これより馬がパレードの先導をおこないます」

 アナウンスが告げると、女の子達はパレードに合流しようと馬を国道の方に向けた。

 観客が馬の周りに群がって歓声をあげる。

 一頭その場で停止、女の子が下馬して白い房のついた綺麗な帽子を脱ぎ、そして観客の求めに応じて歓談をはじめた。

 もう一頭は早々に公園を出て、パレードが来るまで国道で待機している。

 そこに美沙が近づいた。

「すごく素敵でした」

 美沙は誰とでもすぐ仲良くなる特技がある。

 昨日広島に引っ越してきたばかりだから、同い年位の友達が欲しかったのかもしれない。

 私も近づく。

 しかし色々話しかけているものの女の子は帽子を深くかぶりなおし、無言のまま下馬する事も無かった。

 やがてパレードが近づいてくると最後まで無言のまま、隊列に合流し先頭に立った。

「何あれ? 感じ悪」

 悪態をつきながら美沙は長い黒髪をかき上げた。


 観客に答えていたもう一頭もパレードに合流し先頭に立った。

 白馬が二頭先導するパレードに続くのは『今年も達成、人民失業率ほぼ0パーセント』『楽しい生活、人民自殺者0人記録更新中』『健康だから病気にならない人民、長期入院者5パーセント以下達成』『医療費毎年減少、充実した仕事、計画経済で病気にかかる暇なんか無い』等、党のプロパカンダが書かれたパレード車と、その周りを彩るたくさんの踊り手、音楽隊。        

 そして一番煌びやかで大きなパレート車には『人民に夢と希望を与えてくれる渡辺国守様のご健康をお祈り致します』と書かれていて、渡辺書記長の大きな肖像が飾られていた。

 今日は日本共和国最大のお祭り、渡辺国守書記長の誕生祭だ。

 その黄金のパレード車は大歓声に送られ街中を進んで行った。

 二人で並んで見ていると美沙が独り言の様に呟く。

「お兄ちゃん、私病気治るかな?」

 珍しく弱気な発言。

「大丈夫だよ」

 不安げな妹の頭を優しく撫でる。

 頭を私の肩に寄せてくる。

 私達の目の前を、『日本共和国の治安と財産を守る素晴らしき衛兵隊』と誇らしげに書いたパレード車が通り過ぎていった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る