あの夜まで僕達の国があった場所。

 あの夜、勇者達の襲撃を受けて、何も残らない荒野になってしまった場所。

 僕達数少ない生き残りはみんな、その光景を目にするのが辛かった。辛かったけど、紛れも無い僕達の国だった土地に触れる事を、どこかで、その辛さを踏まえても尚、求めていて。僕達の足はつい、其処へ向いてしまう。

 魔王様は僕達が荒野に出掛ける事を何も言わなかった。魔王様が「絶対に行くな」とはっきり言ったのは今日が初めてで、何度か念押ししたのも勿論今日が初めてで。


 だから僕は、魔王様の言葉を聞きながら。

 魔王様が念を押せば押すほど、僕の中に生まれた不安は、ぐんぐんと大きくなっていた。


 僕が行って何になる?

 僕が行って何が出来る?

 ただ魔王様を心配させて、困らせるだけじゃないか。


 そう何度も何度も自問自答しては、荒野に向かおうとする自分を止めていたけど、夜になって僕の理性は感情に負けた。

 理屈では行かない方が良いって分かっていたけど、でも魔王様の事が気に掛かって、向かわずにいられなくて。


 もしかしたら魔王様も荒野に居るかもしれない。

 そしたら「来るなって言っただろ」と怒らせてしまうかもしれないし、何より親しい人を失う事を恐怖している魔王様は悲しんで、泣かせてしまうかもしれない。

 怒られたくない。でも、其れ以上に悲しませたくなくて、僕は頑張って気配を消して、こっそりこっそり、国の跡地荒野に近付いて。



 其処に捨てられている剣を見付けた。



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