「オレもりっぱな勇者になるために、魔術のれんしゅうをしないとな!」


 踏み潰され、既に原形を留めているとは言えなくなった妹の体は、そんな子供の声の直後に生み出された炎で、骨も残さず焼き尽くされた。


「勇者は剣をつかえないといけないからな!」


 オレと妹が2人で可愛がっていた小型魔犬の子犬が居た。

 幼い子供は魔獣と戦う際の練習だと言い、剣に慣れるのだと誇らしげに言いながら、息絶えても尚、子犬に執拗なまでに剣を振るい続けた。

 炎の中、悲鳴の中、そんな子供の行為を讃える人間共の声が届く。「流石は勇者の子供!」「将来は立派な勇者になる」そんな風に将来を期待される声に、子供はますます機嫌を良くして、子犬の原形さえ崩していく。



 ……その子供が多少なりとも成長した結果が、今オレの目の前に立つ少年勇者なんだろう。

 本当はコイツの家族も殺してやりたい。遺体さえ残さず、灰の1掬いを残す事も許さずに。


 ただ情けない事に、オレには無差別に国を滅ぼしてまわるなんて事、出来なかった。

 父さんがオレに武器と防具を託してくれたのは“無事に逃げ切る為”で。

 大人達は何時も「平和に、ひっそりと暮らしていれば何時か魔族への偏見もなくなるよ」と言っていた。

 父さんや大人達が必死で築いてきた物を壊したくはない。

 それに今オレがただただ村を破壊してまわるだけになってしまったら、生き残った彼等も同じ扱いを受けて狙われる事になる。漸く落ち着いて活気を取り戻してきたというのに、それでは彼等に迷惑を掛けてしまうではないか。

 それは、もしかしたら全部、根性の無い、弱虫のオレが村の1つも滅ぼせない言い訳にしているだけかもしれないけど。


 でも、其れ等全てを踏まえた上でオレは。


「まあ、覚えていてもいなくても関係ない。お前はここで滅びるんだからな!!」

「魔王!オレの故郷の家を壊した恨み、数々の村の家を壊した罪を消滅でもって償え!!!」


 コイツの復讐が正当化されて、オレの復讐はただの悪行と見なされようと。

 せめてこの勇者のガキだけには、剣を向けなければ気が済まない。



 ……たとえどんな結果が待っていても。

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