「そりゃあ魔王なんて悪なんだから、討伐したら称賛されるのは当たり前だろ?」

「そして復讐さえ正当化された挙句美化されて、伝説になる?」

「だから魔王は悪だ。悪によって被った害がある。だから復讐する。称賛されて当たり前だろ」

「はっ。魔王側が同じ事をやっても悪逆非道と糾弾されんのにな!!」


 喉が張り裂けんばかりに声を張って、オレは叫ぶ。

 あの夜オレの声は、人々の声は簡単に掻き消されていた。燃え盛る炎の音。オレ達の平穏な暮らしを破った勇者一向によって。

 だけどオレの声は今、それこそ空気を揺らさんばかりの勢いで、かつて故郷のあった場所に響いた。


 何時だってそうなのだ。

 勇者側の復讐は何時の世も美談になる。伝説と語られ、勇者には地位や名誉が約束される。

 しかし魔王側の復讐は何時だって“単なる暴力”として処理された。魔王側の事情なんて考慮される筈もない。

 どんな事情があろうとも、悪辣極まりないのが勇者側であろうとも、正義は勇者にある。


「なあ、新米勇者。家を壊された程度で激昂してるお前に1つ聞きたい事がある。お前は1番最初に殺した魔族を覚えているか?」

「は!?家を壊された程度、って。やっぱ魔王は悪人じゃねーか!家が無いのは大変だし、父さんは怪我だってしたんだぞ?」

「それで?覚えているか?」


 勇者はオレの言葉に分かり易く怒りを増長させた。“家を壊された程度”ではない、家を壊され、父親が“怪我をした”というのは大変な事だと。

 恨み、復讐するに足る事だと。

 オレの家族を殺して、オレ達の国を跡形も無く吹き飛ばした勇者は、自身の行為が正答であるとオレに語る。


 そして心底どうでもよさそうにオレの問いに言葉を返した。


「さあな。そんな昔のどうでもいい事、いちいち覚えてないって。でも小さい頃魔族の国に襲撃しに行ったから……まあ魔獣かなんかじゃないの?」

「そうか。それならいい」

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