復讐の時は来たれり

 まだ破壊の跡の新しい村。「此の辺りで魔王の気配を感じたんだ」「魔王らしき姿を見たよ」という少なくはない情報

 其の通りに、魔王の姿は“其処”にあった。


 てっきり魔王と言えば魔王城で踏ん反り返っているものだとオレは思っていた。

 それも、沢山の魔族に自分を守らせて、そう簡単に魔王が踏ん反り返っているだろう玉座には辿り着けない様にしてるんだろうな、と。


 だけど実際に会った魔王はオレの想像を裏切った。

 城になんて居なかった。魔族に自分を守らせてもいなかった。


 ただ何もない荒野に、御付おつきの1匹もなく、立ち尽くして、何処か遠くを見つめていた。

 それだけだった。


 “それだけ”なのに、オレとそう変わらない様に見える体格からは、人間の物では有り得ない、禍々しいオーラが放たれていた。

 黒髪から映えている羊角や、背中の蝙蝠こうもり羽根がなくても、そのオーラだけで魔王だというのは、はっきりと分かった。

 この邪悪なオーラは、どれほどの悪人でも人間に出せるものじゃないし、そんじょそこらの魔族が放てるレベルでもない。


 オレは父さんから譲り受けた、腰から掲げた剣に手を掛ける。覚悟を決めて、柄を力強く握り締めた。


 まるでオレが武器に手を掛けるのを待っていたとでも言う様な、そんなタイミングで。

 オレが柄を握り締めた直後、何処か遠くを見つめていた魔王が、オレの方へと顔を向けた。


 “魔族は老いるのが遅い”と語られているのは知っている。それにしても幼い様に見える顔は、だけど、そんな幼い顔立ちに見合わず邪気と怒りで満ち満ちていた。

 もしかしたらその幼い顔立ちが余計に邪気を際立てているのかもしれない。


 一瞬気圧されかけたけれど、魔王を倒すのだという覚悟と、あの日以来1度だって忘れた事のない、僅かも薄らいだ事のない復讐心がオレを耐えさせた。

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