5
魔王討伐を目指す旅。
それが常に穏やかな物である筈はない。
魔王の噂は小さな村に居ても耳にしてしまうし、見た目には平和そうに見える場所でも常に魔王の影に怯えている。
本当の意味での安息なんて、穏やかに見える土地にもありはしない。
さっき出発した村は穏やかで、まだ平和で。
でもそんな村に暮らす小さな子供でも「怖いものがいる」といった不安を抱いていた様に。
そして、こんな言い方をするのは嫌だけど“勿論”。
明らかに崩壊しきってしまった村も存在するのだ。
「……う」
オレは訪れた村の惨状に、思わず込み上げてくるものを感じて咄嗟に口を覆った。
幸いにも、漏れ出たのは嗚咽だけで、折角ごちそうしてもらった美味しい料理を吐き出してしまう事はなかった。でも、胃のあたり、胸のあたりはどうにもムカムカするし、締め付けられる。
オレの目の前に広がる、かつて人々が暮らす“村”だっただろう其処は、オレのトラウマを抉るに十分だった。
あの時の記憶。オレの国の記憶がまざまざと鮮明に浮かんでくる。忘れた事なんて1度もなかったけど、より鮮明に、まるで今にも目の前で展開されているかの様に。
オレの魔王討伐への原動力でもある。でも、やっぱり大きなトラウマでもあるのだ。
辛い。悲しい。憎い。吐きそうだ。泣きそうだ。崩れ落ちそうだ。
オレは腰に掲げてある剣へそっと触れる。勇気が欲しいから。覚悟を決めるから。
トラウマもそうした感情も、それでオレの内側になんとか収まりきる。
此処でトラウマに負けて膝を折ってしまうのは、きっと簡単なんだと思う。
でも、そんなワケにはいかない。オレは魔王を倒すんだ。復讐を果たすのだ。オレの故郷の様な国を増やさないためにも。
惨状を目にした瞬間は動揺したけど、そうして言い聞かせている内にオレの頭は冷静さを取り戻したみたいで、1つの事実に気付いた。
ありありと残る破壊の跡は“まだ新しい”。
此処に来る前に得た情報……此の近くに魔王がいるらしい。に信憑性が出来た。
もしかしたら魔王の根城は此の近くなのかもしれないし、魔王自身が居るかもしれない。
そう上手くいかなくても、重要な手掛かりは手に入りそうだ。
長年胸の内に抱き続けた復讐は、漸く果たせるのかもしれない。
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