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「……申し訳ありませんでした、勇者様」
全員と指切りを済ませて、ぱたぱたと思い思いの場所へ散っていく子供達を見送った後、代表に深々と頭を下げられた。
恐縮しきった声音と、ちらっと見えただけでも焦っているのがよく分かる表情に、オレの方が恐縮するし、焦る。
いやいや、なんて言いながら手を顔の前でぶんぶん振りつつ、兎に角顔を上げてほしいと促して、漸く、“恐る恐る”ではあったけど代表は顔を上げてくれた。
勇者っていう立場も楽じゃないかもしれない。
こうやってこっちが焦るほど敬われてしまうのは、実はよくある。
よくあるけど、なかなか慣れない。オレはただ単に魔王を倒したいだけで、オレには運良く父さんから授かった武器と防具があったってだけなのに。
「ほんと、気にしないでください。オレも気を引き締められて良かったです」
なのにそんなオレに訪れる村の人達は、オレが「気にしないでくれ」と何度訴えても敬ってくれる。大切に扱ってくれる。
オレが勇者だから。つまりはオレが魔王を倒す可能性のある人間だからだ。
そうした人間にただ縋るばかりの人達を「愚か者」なんて糾弾するつもりは、オレにはない。
ただ、“勇者だから”と大切にされればされるだけ、悔しいけど「まだ年端もいかないガキ」と言われて否定出来ない様な年格好のオレに、大人達さえ頭を下げる。
ふらっと訪れた少しお兄ちゃんであるオレを案じて、小さな子供が目に涙を溜めて必死で引き留める。
そんな事をさせている根本の原因である魔王への怒りが増加するばかりで。
「魔王を倒したらまた寄らせてもらいます。その時も存分に甘えてしまうかもしれませんので、お互い様という事で」
オレの胸の中でまた勢いを増した怒りに釣られて怖い顔にならない様に、なんとか気持ちを落ち着かせた。子供達と遊んだ事とか、この村で食べた美味いご馳走の事とかを思い出して。
その効果は絶大で、「この村も守るんだ」と、オレの魔王討伐に対する意思をますます強め、それでいて穏やかな笑顔を浮べるのにも成功したと思う。
代表は安心したような、少しだけ晴れやかな表情を浮かべて、「はい!」と力強く頷いた。
「精一杯おもてなしさせて頂きますね!」
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