憎き魔王に復讐を!

「それじゃ、お世話になり……うおっと!?」


 数日間世話になった礼を告げてから再び出発しようとした、正に其の瞬間。まるでオレの行動を阻むかの様に、子供達が足に纏わり付き、オレの服の裾をぐいぐいと引っ張った。

 1人1人の力は大した物じゃないし、何人集ってもそう簡単にバランスを崩したりはしない。一応“勇者”と呼ばれる立場なんだから、魔王に立ち向かえる様にあの日から特訓は積んできた。


 それでも急にじゃれ付かれて驚かないかと言われれば、話は別だ。

 行儀良く頭を下げていたところだっただけに、尚更驚いた。


「お、お前等なぁ……」


 かと言って子供のする悪戯を本気で怒るワケにもいかないし、オレだってこうして旅先で立ち寄った村の子供達に懐かれるのは、悪い気がしない。

 それに子供がこうして無邪気でいられるのは、平和な証拠。まだ魔王の襲撃を受けていないという事だ。

 穏やかな此の村。はしゃぎまわる子供達。


 そういう光景は魔王への怒りと、あの日の記憶でどうしたって荒んでしまうオレの心を確かに癒してくれる。


 だから呆れた様に言っていても、本当は子供がこうしてじゃれてきてくれるのは嬉しいんだ。


「ほら、離れてくれねーと出発出来ないんだけど?」


 やさしく言い聞かせる様に伝えてみるも、誰もオレから離れようとはしない。それどころか、ますますオレの服を掴む手や、足を抱える腕に力が込められるのが分かった。

 今正に挨拶をしようとしていた村の代表も困惑してしまって、いかにも“あせあせ”なんて効果音を伴いそうな具合に、子供達へ必死に訴えている。


「ほら、勇者さんに迷惑を掛けてはいけませんよ。勇者さんは今からまた、旅に出発されるんですから」


 何人かはぷいと顔を背け、何人かはオレの方を見上げた。目が明らかにうるうると潤んでいる。

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