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父さんは強い。国の人達からは“伝説”だと語られている程。
でも今オレ達の国を荒らしている侵入者を、そんな父さんであっても代々伝わる、最強と謳われている此の武器と防具なしには撃退するのは無理だろう。
もしかしたら“太刀打ち”さえ出来ないかも……。
そんな嫌な予感が頭も心も支配してしまうに、今の状況は右を見ても、左を見ても「絶望」の一言だった。
だったら尚更。
此処から逃げ出したとしても、武器まで持って行ってしまう事なんて出来ない。
「なら、せめて!せめて、武器と防具は父さんが持っていてくれよ!!」
きっとみっともなく涙を流していた。
そんなオレの必死の訴えに父さんは、やさしく笑った。
やさしく笑って、首を横に振った。
「これだけの人数、これだけの強さを相手に丸腰で逃げるのは不可能だ。かと行って量産品の武器じゃ、アイツ等には子供騙しのおもちゃも同じだろう。正直伝説の武器と防具があったからって、逃げ出せるとは限らない。ましてやお前はまだ幼いだろう?万全とは言えないが、最低限の装備は整えておいた方が良い」
「父さん!オレは!!」
オレは、自分だけ生き残るなんて嫌だ!!
だけどオレの訴えが最後まで発せられる事はなかった。
突然の衝撃に体は吹っ飛び、まだ火の回っていない地面に尻餅を着いた。両腕には、まだ子供のオレには少し大きい武器と防具が抱えられている。
混乱の中、それでも、父さんに突き飛ばされたのだと分かった。
オレは重い武器と防具を抱えたまま、父さんの方へ戻ろうとする。それなりに距離が開いてしまったけど、まだ戻れない程絶望的でもない。
だけどそんなオレの足を止めたのは、他でもない父さんの、厳しいとも言える叱責の声。
「来るな!!」
オレの足は、そんな鋭い父さんの声に其の場へ縫い付けられてしまう。
父さんのこんなに厳しくて、切迫した声をオレは聞いた事がなかった。それが事態の深刻さをオレに、嫌でも突き付ける。
「まだ無傷の人間や軽症の人間はいる!お前は彼等を救い出して少しでも遠くへ逃げるんだ!!」
「で、も」
確かにまだ、救える命はあるかもしれない。なら、それを見捨てる事を「罪深い」と言われるのも仕方ないだろう。
だけど、それでもオレは父さんと一緒がいい。
家も、国も、母さんも、妹も失った。其の上父さんまで失うなんて絶対に嫌だ。
「大丈夫。父さんの強さはお前がよく知ってるだろ?こんな話も通じない、暴力だけを行使する乱暴者には負けんさ」
豪快に笑う父さんの顔。オレのよく知る父さんの顔が炎に照らされて。
次の瞬間には、其の笑顔さえも呑み込んだ。
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