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「……お前は、逃げろ」
オレに代々伝わるという武器と防具を押し付けながら、父さんはそう言った。
傷だらけの父さんは、それを言うだけでもとても苦しそうで、息も凄く浅く、荒い。
オレが父さんを一言で表すなら、「最強」がぴったりだと、ずっと思っていた。
事実父さんは強くて、オレは大きな怪我を負う父さんというのを、今迄に見た事がない。
だからこそ全身傷だらけ、火傷だらけで、体中から血を流している父さんの姿は、オレの体を情けなく震わせるのに、十分だった。
家が燃えて、店が燃えて、今日の昼間は普通に笑っていた人達が燃えて。
そんな光景に加えて、最強だと信じて疑わなかった父さんの重傷。
情けなく震える事しか出来ないオレは、父さんの言葉に、やっぱり情けなく首を横へ振るしか出来なかった。
オレは確かに無力で。凄く情けなくて。
だけどこのまま、父さんや国のみんなを放って1人安全圏に逃げる事なんて出来ない。
自分だけが生き延びるなんて事を、他でもないオレ自身が許せないんだ。
母さんは死んだ。
オレの目の前で、侵入者に背後からばっさりと斬り付けられた。
母さんには守りたいものが……母さんは自分の身を危険に晒してまで自分の娘を、オレの妹を守りたかったんだ。守ろうとしたんだ。
でも侵入者はまだ小さなオレの妹を、母さんが自分の命を引き換えにでも守ろうとした小さな子供を。まるで道端に転がる小石を蹴飛ばすかの気軽さで踏み潰した。
オレは無力で。
ただ見ているしか出来なくて。
それでも、そんな光景を目にしながら「ラッキー!じゃあオレは逃げます!」なんて、どの口が言える!?
何も出来ない。だから逃げようなんて、どうして思える?
戦況が絶望的で。
オレには何も出来ないなら。それならいっそ。
オレも自分が過ごした国で、よく知る人々と一緒に死にたいと思うのは、そんなに罪深い事じゃないだろ?
それに。
オレは父さんが今、オレに押し付けた武器と防具を見つめる。
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