二日目⑥

 それから一時間、穏やかなトゥボン川を下って海の手前へと進んでいく。

 海外観光紹介サイト『Touropia』が発表した、世界で有名な運河に、このトゥボン川が世界四位にランクインした。

 ホイアンのバクダン通り沿いに流れる広い河川には、徳川家康が鎖国を行うまで三十数年の間、朱印船が往来した場所でもある。

 ラウンドボートが停まり、トゥエントゥンと呼ばれる割竹を編んで作られた巨大な籠みたいなバンブーボートに乗り換える。バンブーボートは、二人の旅客と漕ぎ手の三人が乗れるほどの大きさだった。ベトナム笠のノンラーを貸してもらい、一時間のウォーターココナッツの森クルーズがはじまる。

 クルーズの途中では、貝やカニ釣りをした。

 サクヤは釣れなかったが、同乗者の金髪女性が釣り上げ、「She、She、She!」とうれしそうに笑って連呼した。

 男性が使うものには男性名詞が使われることがあるを知っていたが、カニは女性名詞で呼ぶものなのかと、浮かぶ疑問に思考を奪われてしまう。

 あとでサクヤは、自動車は男性が運転すれば「She」だし女性が運転するときは「He」になる、とツアーで知り合った人から聞いたのを思い出し、面倒だから「It」でいいよ、とため息のようにこぼした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る