八日目⑧
美荷樓生活館を出たサクヤは、休憩しようと近場の嘉頓本社へ向かった。
香港のスーパーやガイドブックのお勧め土産にも、必ずといっていいほど可愛いコックのイラストが描かれた商品を目にするほど、パンやお菓子の製造販売として有名な会社である。
本社一階には、自社商品の展示スペースとカフェが併設されていた。
展示スペースには商品の歴史として、昔と今のパッケージの違いが比較でき、ガラスケース内には、販売当時のクラッカーやチョコレート、月餅缶が展示、いまもスーパーに売られている格子柄が特徴の生命麺飽のパッケージも確認できる。
麺飽(ミンパオ)とはパンであり、生命麺包は、命の糧のパン、という意味合いだろう。
生命麺飽のノベルティグッズ、マグやエプロンなども展示されていた。
「展示スペースはこれで終わりか。隣は販売コーナーになってるんだ」
あとで覗くとして、いまはカフェだ、とサクヤは足を進める。
販売コーナーの周囲にテーブルと椅子、ソファーが置かれ、一息できる喫茶コーナーとなっていた。ショーケース内に置かれた自社製アップルパイやケーキが並んでいる。
サクヤはメニューボードに目を向け、ブレッドセットのトーストと紅茶を注文した。
サクヤは京娘である。パン食が好まれるパン文化の住人でもある。
鋭い眼差しを向け、トーストを口にした。
「ガーデンは、日本でいうならヤマザキパンみたいな会社だと思っていたが、味はまさにヤマザキパンだな」
一息ついてから販売コーナーを見に行く。香港土産の定番、ネギ入りクラッカーのPOP-PANが棚に整然と置かれていた。定番のネギ味はもとより、南乳味、カレー味、ゴマ味、ガーリック味がある
「食べはじめたら止まらなくなるんだよな。とくにカレー味は美味い」
POP-PANの漢字表記名は香葱薄餅。薄餅(ポーピン)とは、小麦粉を練って薄く伸ばして焼いたものを指す。
「ポップパンではなく、きっとポーピンと読むんだな」
サクヤはニヤついて別の棚に目を移す。
他には、ジャイアントロリポップやフィンガーチョコレート、リームウエハースなどの嘉頓商品も販売されていた。グッズ展開もされているのには、サクヤも目を引いた。生命麺包デザインの買い物袋やエプロン、レシピ本にコースター、それにCD。
「CD?」
思わず手にしてしまう。
「五曲入りか。コマーシャルソングかな」
思い入れもないのでサクヤはそっと元に戻す。
ほかに商品ブースをみていると、立方体に近い赤くて大きな箱をみつける。幸運曲奇の文字の上にかかれた英語を思わず口にした。
「フォーチュンクッキーだ」
日本に起源がある占い付きの菓子は、江戸時代から酒席や宴会で出されるツマミの一つだった。第一次大戦時期、日系移民の萩原眞がサンフランシスコのゴールデンゲートパーク内にある日本庭園の敷地内で、訪れた客にだすお茶請けとして英語の占いを書いた紙片をいれた煎餅を手焼きして出していた。
その後、全米各地へ広まったが、第二次大戦中に日系人は収容所に送られ、フォーチュンクッキーの生産設備は中国系移民の手に渡ってしまい、いまでは世界中の中華レストランに広まっている。
「本社に売ってたのか。でも、以前ここに来たときはなかったんだけど」
サクヤにとって、思い出のある商品だった。
あれは毎年のように香港に訪れていたサクヤが土産に困っていた時、嘉頓がフォーチュンクッキーを販売している噂を聞きつけた。ちょうどいいと考え、香港へ渡るたびに探したが見つけ出せなかった。
「本社で売り切れるわけがないし、期間限定みたいな商品なのかな。たとえば旧暦の正月に合わせて販売とか」
そういえば、とサクヤは思い出す。これまで香港を訪れた時期は、春先や冬前ばかり。一月か二月に渡航すれば見つけられたかもしれない。
フォーチュンクッキーの箱を持って購入を、としたいサクヤが財布と相談した結果、おとなしく元あったところへ戻すしかなかった。
「職場土産にしたかったなあ」
生命麺包デザインの買い物袋を購入し、サクヤは嘉頓を出た。
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