八日目⑥
隅々まで見学するなら半日以上必要な博物館を、サクヤは一時間で駆け回った。
あまり時間をかけてはいられない。もう一箇所、見に行きたい場所があるのだ。
来た道を小走りで戻ると地下鉄を乗り継ぎ、シャムスイポー駅で下車した。
「暑さで体力を削られる~」
D2出口を出たサクヤは、うなだれながら正面の桂林街を直進する。
ここは九龍の中心を南北に走る彌敦道(ネイザンロード)を北上し、西に続く長沙湾道を八百七メートルほどいったところにあるシャムスイポー地区。九龍の下町中の下町である。
店舗のほとんどが卸売専門の衣料品問屋や電気機器、パソコンのパーツ、裁縫やアクセサリーの材料を扱う専門店で溢れている。加えて、激安物やガラクタ、青空マーケットなど露店もぎっしり並び、それらを目当てに地元民も集まっている。
周囲のビルや住宅は、唐楼とよばれる築五十年以上のエレベーターのない低層アパートばかり。駅の周辺にはコンビニも見かけたが、雑多な街並みは裏通りといった感じがした。
開けた感じの青山道に出てると左折。右手の大埔道沿い進むと左手には嘉頓本社の時計台が、右手にはオレンジ色の建物がすぐ見える。
駅から徒歩十分、サクヤは美荷樓(メイホーハウス)に到着した。
二〇〇九年、香港特政府発展局による歴史建造物の活用計画に選ばれ、わずかしか残っていなかった歴史ある公共住宅の一つ、美荷樓がYHA美荷樓青年旅舍としてリノベーションされ、二〇一三年に開業。公共住宅がユースホテルに改装されたのは、香港では初である。
宿泊施設には、美荷樓生活館が併設されている。一九五〇年代から七〇年代にかけての、美荷樓での生活様式がわかる展示物を、観光スポットとして無料で開放しているのだ。
「無料とは、実に太っ腹」
サクヤは軽やかにスキップを踏んで入っていく。
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