三日目③

 南北に細長いベトナムの中部に位置するダナンは、ハノイ、ホーチミンに続く『第三の都市』として栄えている。

 ここ十年余りの間にリゾート開発が盛んとなり、ホイアンまで続く約三十キロの美しくクリーンなビーチ沿いには、高級リゾートホテルが次々とオープンしている。

 そのなかの一つ、おしゃれでスタイリッシュなリゾートホテルが五つ星、フュージョン・マイア・リゾートである。

 ベトナム国旗とホテルのロゴマークの入った旗がたなびいている。開閉式の鉄門傍にある監視員の詰め所を横目に入って行く。

 玄関へ続く道の両脇に竹が立ち並び、しなる度に葉ずれの音が溢れる。


「素晴らしい嵯峨野の竹林道を思い出すね、サクヤ」

「そうだね。ベトナムにも竹林があるとは、しらなかった」


 玄関先には花弁が五枚の赤と白のフランジパニの花が咲いている。ハワイではプルメリアと呼ばれ、花言葉は『内気な乙女』もあるが、『身体を温める』とか『癒す』といった意味合いもある。

 ロビーには、ベルマンとポーターの姿がある。

 ベルマンに荷物をまかせ、二人は奥へと向かう。

 天井の高いエントランスロビーに置かれたパープルのソファーやクッション。全体がパープル、ホワイト、ラズベリーピンクで統一されている。入って左手の鏡前には綺麗な花が飾られ、右手側のついたて奥に配置されたカウンターがレセプションとなっていた。

 白や淡いグレーのユニフォームでスタッフが出迎えてくれた。

 英語ができるサクヤだったが、流暢に操れるほどではない。

「なんとなく」とか「それなりに」とか、どうにかこうにか理解できるレベルである。

 キョウもサクヤとは同レベル。二人はぎこちない笑顔を浮かべた。


「こ、こんにちは~」


 思わずサクヤは日本語で言ってしまった。


「そこは英語でいわないと」


 耳元で囁くキョウの指摘に、わかってると小声で答えるも、なんと言えばいいのか出てこず、とっさにキョウを見てしまう。

 キョウは瞬きし、ムリムリと首を横に振る。

 にこりとスタッフは微笑んだ。


「こんにちは、フュージョニスタです」


 日本語通じたぁーっ。内なる叫びとともにサクヤとキョウの表情が明るくなる。

 ウェルカムドリンクを飲みながらクレジットカードとパスポートを渡し、細かな説明を受けながらタブレットを使ってチェックインの手続きをしてもらう。

 ドリンクの色までパープルっぽい。


「ねえ、サクヤ。これグレープジューズ?」

「爽やかで濃厚な香り、甘さだけでなく酸味。これはベリー系……パッションフルーツのモクテルか」

「カクテルの親戚? お酒入ってるんだ」

「モクテルは、ノンアルコールカクテルのことだよ」


 チェックイン後、ホテル内外の情報が書かれたカードをもらう。日本語で書かれていて、「親切ね」キョウは呟いた。

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