三日目④

 ヴィラに続く白い壁と石畳の小道を通って、スタッフに案内してもらう。施設内はロビーからレストラン、スパ、プールまで完全なシンメトリー配置がされている。小道両脇には竹が植えられ、ここも竹林トンネルになっていた。 


「通路が統一されてこんな感じだと、迷うよね」


 キョウの指摘はもっともなれど、サクヤは微笑する。


「大丈夫やと思うよ。今回宿泊するヴィラは、四つしか無いスパヴィラだから」


 ヴィラの入り口には『40』の数字が書かれたプレートが設置されていた。

 扉を開けて入ると、広いリビングルームにサクヤは息を呑む。

 白を基調とした部屋、壁一面のガラス窓のリビングルームの向こう、プールの水色と茶色のレンガを覆う緑が目に入ってくる開放的な巨大な空間があった。


「わあ、すごい。リビングから中庭のプールが一望できるなんて」


 キョウはすかさずデジカメで室内を撮影しだす。

 高い天井、白いタイル張りの床。通常のプールヴィラの二倍の広さがある。

 配置されている白いソファーにはパープルのクッション。部屋のリビングもシンメトリーになっていた。

 リビングダイニングテーブルに置かれてあったのはウェルカムフラワー。リゾートのイメージフラワーのガーベラである。花の中心がパープルカラーのみたことのない品種で、花言葉には「希望」や「常に前進」といった前向きな意味がある。

 六脚用意されているダイニングテーブルに、サクヤの目が止まる。

 ウェルカムフルーツとチョコレートにメッセージカードが添えられていた。


   ようこそ、フュージョンマイアへ!

   あなたたちと一緒に素晴らしい滞在をお祈りしています。


 無料でWiFiを利用できる他、薄型テレビはケーブルテレビと衛星放送、NHKがみられる。

 かんたんなキッチンもある。左手側から、IHクッキングヒーター、コーヒーメーカー、電子レンジ、シンクが用意され、上の棚にはグラスや皿などの食器、下の棚を開ければ鍋やボール、包丁やフライ返しなどの調理用品が揃っている。

 小型冷蔵庫内には飲料があり、酒は有料。つまみのスナック類も用意されていた。


「もうすこし冷蔵庫が大きいとよかったかな」


 キョウの指摘にサクヤはうなずく。


「あまり冷やせないね。購入したビールとかビールとかビールとか」


 キッチン脇の黒い扉が玄関ドア。その近くの扉が、一つ目の浴室と寝室。壁がないせいか、室内が広く感じる。

 シングルベッド二台を密着して並べるハリウッドツインタイプ。天蓋風の布が垂れ下がっている。クローゼットの扉はキューブ状で鏡張りになっている。

 バスタブと独立したレインシャワールームがあり、トイレと洗面所が完備。バスローブも用意されている。

 キッチン左側にはリビングにあるトイレと洗面所がある。

 その奥にもう一つのベッドルームとなっている。一つ目と同じだが、違うのはダブルベッドなところと、ジャグジー付きのバスタブという点。他に気がついた点は、ベッドルームのテレビは、ベッド側からバスタブ側まで三六〇度回せるように設置されていること。室内にはトイレは三箇所、洗面台は五箇所も設置されていた。

 プライベートプールはかなり広く、三メートル×五メートルほどの広さ。手前は浅く、奥に行くほど深くなっている。水温は一定に保たれているのか、冷たすぎることもない。レンガの壁に囲まれているため、裸で泳ぐこともできるだろう。プール右側には、寝そべれるビーチベッド二台と天蓋付きデイベッドが置かれている。左側にもビーチーベッド二台が置かれ、その隣にはガラス張りのテーブルを囲むように配置されたソファーがある。日よけの為か、ソファーの上には藤棚のように白とピンクの花をつけたブーゲンビリアが茂っていた。花言葉は『情熱、熱心、あなたしか見えない』である。

 このスパヴィラの室内は百十平方メートル。中庭は八十九平方メートル。プールは十三平方メートル。合計二百十二平方メートル。およそ六十四坪の広さ。


「ところでサクヤ、いまさらだけどヴィラってなに?」


 ひと通り見終わると、キョウがサクヤに訊ねてきた。


「一戸建てで、自分の別荘にいるように過ごすことを目的とした宿泊施設だよ。一度、泊まってみたかったんだ」


 サクヤの顔に笑みが浮かんだ。

 二〇一〇年にオープンしたフュージョン・マイア・リゾートは、アジア初、滞在中スパ・トリートメントが受け放題(スパ・オールインクルーシブ)という斬新なコンセプトのリゾートホテルである。

 九種類のマッサージ、六種類のボディーケア、五種類のビューティーケア、毎日テーマに合わせた内容やエッセンシャルオイル、ネイルや妊婦用のコースも用意されている。その中から一日二回、追加代金なしで受けることができるのだ。セラピスト数は五十人。それでも希望時間に予約が取れにくい時間帯もあるらしい。予約方法は大きく三段階にわかれている。



  到着前は宿泊日数に関わらず、二回の事前予約が可能。

  チェックインの際、一日二回の予約することが可能。

  一泊ならチェックイン日に二回、チェックアウト日に二回。

  二回予約済みの場合、一日二回を限度に予約可能。

  一日二回以上を希望する際、スパ終了後に予約を入れる。

  同じマッサージを二回連続で受けられない。

  フェイシャルは一日一回まで。



 スパ施設にはプールやスチームバスが完備され、スパアクティビティも豊富で、太極拳やヨガ、瞑想や呼吸法、フィットネスクなどが受けられる。

 八十六あるモダンな客室はすべてプライベートプール、屋外リビング付きのヴィラタイプ。水着を着てなくても気兼ねなく泳ぐこともできる。

 客室は三タイプあり、最も小さな部屋でも百平米ある贅沢な広さがある。ベッドルーム、バスルーム、リビング、中庭、プールと揃いぶみ。ゆったりとした空間は魅力的なプライベートヴィラが堪能できる。客室のプール以外にも大きなメインプールがあり、ビーチとつながって見えるインフィニティプールである。

 ビーチサイドのレストランでは潮風を感じ、海を眺めながら、新鮮な海鮮料理を朝食から夕食まで味わえる。

 旅行の度に、「汚い部屋には住めるが狭い部屋には住めない欧米人。狭い部屋には住めるが汚い部屋には住めない日本人」なんて言葉を思い出すサクヤも、ここは日本人にとっても宿泊するに申し分ないホテルと断言できた。

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