二日目⑪

 淀んだトゥボン川へ、サクヤは目を向ける。観光客相手の遊覧ボートの他、バイクを渡すために利用する渡し船や漁船など、大小の船舶が入り乱れて浮かんでいる。

 サンセットクルージングの参加者は、桟橋からラウンドボートへと乗船した。

 四本の竹竿で固定された川に浮かぶ仕掛け網が目につく。滑車がついていて、網を水面下に沈めて魚を救い捕る仕組みになっているらしい。ホイアンの漁業では引き網、まき網、すくい網、流し網など様々な漁法をし、穫れる魚の種類の豊富さが市場を賑わせている。

 木々が茂る川沿いの道には芥子色の壁の古民家が建ち並んでいる。古い東洋風の民家にときどきポツン、ポツンと混ざっている芥子色した西洋風の佇まいの木造家屋は、かつて貿易でうるおった商人たちの商家であった。どの家も、京都の町家のように間口が狭く、縦に細長い。古いものだと築二百年以上経過している。

 顔に当たる風が、サクヤは心地よかった。

 流れる川の水はお世辞にも澄んでいるとは言えないが、緩やかに流れる様を見ていると、何だか眠気に襲われる。

 気づけば船上で寝入ってしまった。

 見過ごしたと焦るも、空は曇り、夕日は見れなかった。

 今頃、キョウは部屋のベッドで寝ているに違いない。こんなことなら参加せず、仮眠を取ればよかったかもしれない。いや、それは違う、サクヤは胸の内でつぶやいた。

 マーク・フォースターのマニャーナの法則にあるではないか。「今日すべきことは今日やればいい」それがトリッパーというものだ。

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