二日目⑨
「とにかく暑かった」
サクヤの向かい側に腰掛け、キョウはバインミーを頬張りはじめた。
「んー、これ、うまいよ」
「まじでか。食べさせて」
キョウに缶ビールを手渡し、サクヤは一口もらう。
「む、パンがうまいんだ」
サクヤは京娘であると同時に、パン文化の住人でもある。
京都市はパンの消費量が日本一であり、パンの聖地が存在する。北部に位置する北山通りは、パン通りと呼ばれ、創業百年以上の老、舗進々堂のほか、根強い人気を誇るトコハベーカリーなどさまざまなパン屋が多く集まっているのだ。それだけじゃない。たま木亭、まるき製パン所、志津屋、Le Petit Mec IMADEGAWA、ル・プチメック御池、フリップアップ、ブリアン、PAUL、ベーカリー柳月堂、進々堂、オレノパンなどなど。数えあげたら切りがないほど、京都にはおいしいパン屋が溢れている。
高評価のパン屋を食べ歩いてきている二人の目が、より鋭くなった。
「外はカリッとして中はふんわり、ちょっとモチモチ感もあるよね」
「うむ、フランス統治時代の食文化の名残だ」
バケットにレバーペーストを塗り、チャー・ルアと呼ばれるパテをはさみ、唐辛子をかけただけのシンプルな作りをしていた。
バインミーとはフランスパンにレバーペーストを塗り、ソーセージやハムなどを挟み、パクチーなどの香草や大根やニンジンのなますを加え、シーズニングソースやヌクマムなどの調味料が振りかけられたサンドイッチを指す。店によってレシピが異なり、豚肉や鶏肉、魚や卵など具だくさんに挟める店もあるらしい。
「挟んでるベトナムのハムがいいね」
「チャー・ルアかな、それ」
サクヤはビールを一口飲む。
「旨味がギュッと濃縮されている。手間をかけて作ったに違いない」
食べ終えた二人はしばらく、電線越しに通りを眺め続けた。
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