一日目⑩

 涼し気な夜風に吹かれてライトアップされたチャンフー通りを歩く。

 キョウがボストンバックからミラーレス一眼デジタルカメラを取り出しては構え、興奮ぎみにシャッターボタンを押しはじめた。

 そんな彼女の隣でサクヤは空を仰ぐ。

 ランタンのぼんやりとした明かりが並んでみえる。向かう道の両脇には、カフェやバー、レストランに雑貨ショップ、土産店が軒を連ねて彩りをみせていた。

 旧暦十四日に行われる、月に一度のランタン祭りは有名だが、祭り以外の夜にもランタンが彩られていた。喧騒や罵声などもなく、多くの人々がひそやかに夜の時間を楽しんでいる。夏の縁日のような雰囲気だ。

 土産物店に吊り下がるランタンをみながら、観光客が何色がいいか、どの形にしようかと選んでいる。制作途中のランタンも見かける。ランタンの骨は古い竹で作られ、楕円体にするのか双円錐にするのか、竹の厚み次第で曲がり具合が変わる。

 一九七五年、寺の飾りとして一軒の店に依頼されたのが始まりだ。観光客の増加とともに一九九〇年半ばから急に店が増え、あっという間に有名になった。

 持ち帰りやすいよう、傘からヒントを得て、形が細くなる折りたたみ式が生まれた。表面の布地を貼るのは各販売店の仕事で、骨組みのほとんどが『Huynh Van Ba』という名前の店から買っている。四十年前にたった一人ではじめ、いまでは従業員二十名が働き、月に三千個ものランタンを作っている。

 来遠橋もライトアップされていた。

 近づくと、橋の守衛に止められてしまう。この橋を渡るには観光チケットが必要らしい。チケットセンターの営業時間は夕方六時まで。ここホイアンは、観光名所に入るためには観光チケットが必要なのだ。


「ホテルに戻らへん?」


 サクヤはキョウに声をかける。

 朝は早かったし、昨日までの仕事の疲れとホイアンまでの移動疲れから、シャワーで汗を流してベッドに横になりたい気分だった。


「まだ、いろいろ撮りたいから」


 キョウはデジカメを抱えながら歩いて行く。


「一人で動いたら危ないって」


 サクヤの声を聞き入れてくれる様子もなく、キョウはどんどん行ってしまう。あの元気はどこから湧いてくるのだろう。子供ではないのだし、注意を聞いてくれる性格でないことも知っている。


「おーけー。じゃあ、自由行動にしよう」

「うん。なるべく遅くならないよう気をつけるから」


 キョウは、観光客がそぞろ歩くホイアンの夜へ紛れていった。

 彼女がホテルに戻ってきたのは、寝付けないサクヤが微睡みかけた、午後十一時過ぎだった。

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