一日目④

 現地時間、午後一時三十分過ぎ。

 飛行機は、香港国際空港(チェクラップコク国際空港)に到着した。

 機外に出ると気温二十度はありそうな汗ばむ陽気につつまれる。

 すでに香港は春だった。

 サクヤたちは、到着した人たちと一緒にかなり長い通路を歩いて一時入国する。乗り継ぎのためしばらく待たねばならないが、三時間ほどしかない。入国審査場までの移動や審査などを考慮に入れると、一時間くらいしか余裕がなく、近場の観光へも行けない。


「サクヤ、ここでなにするの?」 


 聞きながらキョウは、スマホ片手に空港内を撮影をしていた。

 インスタグラムに画像を上げるためだろうなと、サクヤは横目で見る。


「時計の針は戻らないが、自らの手で進めることはできる」


 サクヤが呟くと、キョウは眉をひそめて首を傾げ、スマホから顔を上げた。


「……先にチケットを買うの?」

「どうしようかな」


 ひたすら歩いて、サクヤとキョウはバスターミナルにたどり着く。

 バスチケット売り場を、サクヤはロータリーの左側に見つける。売り場前には数人並ぶ列があった。

「滞在期間が長いなら、オクトパスカードでもいいけど、今回はそんなに移動しないかもしれないし……キョウはどうする?」


「わたしは必要無いかな。それより、どうしてタコなんだろう」


 聞きながら考えを固めるサクヤは、目を細めてキョウを見た。


「カードの名前のこと? 道路や鉄道が網の目のように四方八方に通じていることを四通八達というから、そこからきてるんじゃね」

「へえ、サクヤはものしりだね」


 サクヤはひっそり笑った。

 売り場をあとにした二人は、来た道をのんびり戻っていく。

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