彼は快楽殺人鬼

ライフル

第1話J.T.R

人が笑うときはいつだろう。それは安心したときだ。安心している時ではない。その直前まで、何らかによって縛られていなければならないのだ。つまり、とある路地裏にいるその男はその顔中に狂気の笑みを浮かべるに足るだけの何・か・に縛られていたのだろう。それは多分、緊張感と背徳感そして興奮だ。


  彼は快楽殺人鬼。かなり凶悪で、残虐で、冷酷な男だ。


 彼にはこれと言った動機がない。最初は只の興味本位だった。そしてそれは運命の出会いだったのだ。「殺してみたら楽しかった。」とそういうことらしい。故に、今彼の目の前に転がっている芸術的なまでにきれいに刻まれたついさっきまで娼婦だったものとの因果関係などは微塵もない。彼はが娼婦を狙うのに理由は特にない。強いていうなら都合がよかった。それだけだ。

 人が彼をジャックザリッパーと呼んでいることは彼だけが知らない。彼は自分のすべてを知りはしないのだ。彼は自分を失った。あるいは奪われたのかもしれない。彼の父親によって。


 少年だった頃の話。母親を早くに亡くしたころからか、父親にひどい扱いを受けていた。その中性的な顔付きが不幸を呼び父親に犯されていた。何かにつけて、殴られそして蹴られた。なにもなくとも暴行は行われた。しかし、少年は父親に恨みを持ってなどいなかった。例え、どんなに暴力を奮われても。例え、どんなに犯されつづけようとも。母を失った事によるショックが大きかった。その事がどうでもよくなるほどに。しかし、その父親に殺されそうになったとき事は起こった。「殺してみたい。」そんな衝動に襲われた。そして気づけば自分の眼前に、父親の死体がころがっていた。

 その時言い様のない興奮が、少年を襲った。笑いが止まらなかった。何かから解放された。そんな気分であった。そして、少年はその感覚の虜となってしまった。


 こうして少年は殺人鬼となった。もう一度あの感覚を味わいたい。それだけが彼の心を動かし続けた。

 これでもう殺したのは13人。



 殺人は、まだまだ続く。

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