第6話



 * * *




――2年後。



そろそろ日も落ちてきた午後6時すぎ。

リビングには、カレーのいい匂いが充満している。


「もう少し待っててね」

「じゃあ、テーブルを拭いとくよ」


俺は、ふきんを片手にテーブルを拭き始めた。


あれから、俺には大きな変化があった。


結婚──


そう。

俺は、里沙と結婚した。


実は里沙が俺のもとを離れていったのは、知り合いの連帯保証人になってしまい、多額の借金を負ってしまったから。

あの時、喫茶店での『ごめんなさい』はそういう意味だったのだ。


再開したのは本当に偶然。

街中でバッタリと出会い、それから再び付き合うことに。


もちろん、付き合う前に里沙は、1億の借金のこともちゃんと話してくれた。

それを聞いて俺は、ピンときた。

おそらくこれが、あの貯金箱に入れた5千万の当りくじのしっぺがえし分……その1億なんだろうなと。


ちなみに、5千万の半分として返ってくる2500万円は、理沙との結婚と共に手に入れた。


というのは、理沙が花嫁道具として貰った祖母の形見の指輪が、なんと2500万もの価値があったのだ。

当然、1億の借金返済の足しにしようと考えたが、それでも到底追いつかない。

2人で返していくことには変わりがなかった。


「ねえ、英治」


里沙は夕食のカレーを煮込みながら言った。


「なんで、私と結婚する気になったの?」

「え?」

「いや、だって……あんなに大きな借金があったのに……」

「ああ……」


俺は言った。


「どうせ1億を払うなら、勿論、里沙のためのほうがいいと思ってね」

「え?」

「あっ、いや、何でもないよ。あのね……」


俺はニコッと笑って言った。


「里沙のことが好きだからに決まってるだろ」

「英治……ありがとう」


よほど嬉しかったのか、里沙は少し涙を流しながら笑みを浮かべた。


俺の決断は正しかった。

なぜなら、その分の幸せを得ることができたからだ。


実は、嬉しいことに子供を授かった。

1億、いや、それ以上の価値がある。

幸せは、ちゃんと返ってくるもんだな。


「でも……」


理沙は涙を拭きながら言った。


「未だに信じられないわ。もう借金がないなんて……」

「あぁ、そうだな……」


俺は理沙をやさしく抱き寄せた。


そう。

現在、すでに1億の借金は返済。

なぜかというと、一つの考えが成功したからだ。


それは『マイナスの金額』を貯金箱に入れるという方法。


試しに俺は、携帯の請求書を入れてみた。

ちなみに、請求額は6千円。

すると、6千円の半分の3千円が出ていって、1万2千円が返ってきた。


全く逆になったのだ。


だから、1億円の借金の借用書を入れてみた。

すると父親が、素人なのに手を出した株で失敗し、5千万円の借金を負うはめに。

その穴埋めのために、祖父から譲り受けた土地を手放すことになった。


その土地の価値は、5千万円。


一応、父親の借金は無くなった。

だが、その土地はいずれ、俺が相続するもの。

だから実質的には、俺にとっても5千万円の損をしたことになる。


だが、奇跡がおこった――


ある日、職場のごみ箱に捨てていた宝くじを拾って確認した所、見事に大当り。

2億円が手元に転がりこんできた。


2億から、借金1億と譲り受けるはずだった土地の代金5千万を差し引くと、残りは5千万。

だから、俺には逆に5千万円の貯金ができた。


「でも、びっくりしたわ」


里沙はカレーを皿に盛りながら言った。


「まさか、拾った宝くじが当たるなんて」

「うん……ジェリックのおかげだよ」

「え?」

「あっ! な、何でもない!」


俺は慌ててごまかした。


危ない、危ない。

うっかり、ジェリックの名前を出してしまった。

でも……宝くじ当選者の中には、他にもジェリックが関わっていたりしてな。

俺と同じように、あの貯金箱で『お金を支配した人』がいるのかもな。


ジェリック、ありがとうな。

おまえのおかげで俺は幸せだよ。


王子でニューハーフ、おまけに魔法使いの幽霊なんて、キャラが濃すぎるよ。


だから……俺は一生、忘れないよ。


あぁ、そうだ。

この貯金箱は、もう使わないよ。

これからは、自分の力だけで金を支配できるように頑張っていくよ。


あっ、最後に1つだけいいかい?

もし、おまえさえよければ……




また、どこかで会おうな






 * * *




「おげんこ~! あなたがあたしにお金をプレゼントしてくれたグッドルッキングガイよね~~~~」

「だ、誰だ!?」

「そんな事どうでもいいじゃん~、お礼に魔法をかけてあげるわん~」

「ま、魔法??」

「そうよ~。頑張ってお金を支配してね。とりあえず、当分ここに居させてもらうわね」



あたしの名前は、ジェリック。

えいじちゃんと同じように、あたしの足元にお金を置いてくれたボーイが日本にもう1人いたから、こっちにもお礼をしにきたというわけ。


ウフフ。


思った通りのイケメンマッチョなかわいい青年ね。

ずっとここに住んじゃおうかしらん。


ウフフ。


ところで、今のえいじちゃんなら、もう貯金箱を使わなくても、お金を支配できそうね。

これから、家族のためにも頑張ってほしいわね。


で、このイケメンマッチョのボーイはどうかしら?

お金に振り回されなきゃいいけどね。


「さてと」


あたしは、かわいいかわいい青年に言った。






「この貯金箱でお金を支配してね」







【END】





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幽霊さまの貯金箱っ! ジェリージュンジュン @jh331

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