第4話


──翌日。


仕事が終わった午後5時半。

俺は、急いで銀行のATMに向かった。

なぜなら、今日は待ちに待った、給料の振込日。

残高を見るために、いつも恐る恐る押していた暗証番号も、この日ばかりは違う。

まるで、手が意思を持っているかのように、素早くボタン操作を行っていた。


「よし……」


そして、給料を確認。

俺は自然と笑みが浮かんだ。


良かった。

これで、しばらくはまともな生活が出来そうだ。


「さてと……」


とりあえず、スーパーにでも行くか。

今日ぐらいは少し豪勢な食事にしてもいいだろう。

ということで、少し金持ち気分になった俺は、久々のビールと唐揚げ、天ぷら、ほうれん草のおひたしなどを買い込み、家へ向かった。




──数時間後。



「う~ん、何もなかったな……」


夕飯を食べ終わった俺は、ポツリとつぶやいた。

結局、144円が戻ってくることはなかった。


「なぁ、ジェリック。昨日入れた288円の半分、戻ってこなかったぞ」

「それは、いつになるかはあたしにも分からないの。1時間後かもしれないし1週間後かもしれないし」

「そうなんだ」


そうか。

じゃあ、仕方ないな。

とりあえず俺は、空になったトレイを捨てようと、テーブルの上を片付け始めた。


「ん?」


すると、今日買った商品のレシートが目に入った。


「あれ……?」


じっくりとレシートを覗きこむ。


「あっ……打ち忘れたのかな……」


そう。

そこには、ほうれん草のおひたしの代金が載っていなかった。


「ま、まさか!」


これが、貯金箱の力か!?

俺は、トレイについている値札を覗きこんだ。


「あっ……」


180円……か。


そう。

値段は、俺が期待していた144円ではなかった。


「いや、待てよ……」


だが、俺はすぐに気がついた。

その値札の横には『レジにて20%オフ』のシールが貼ってある。


「180円の20%オフってことは……あっ!」


俺は目を見開いた。

そう。

ぴったり『144円』になったのだ。


「すごい、すごいぞ!」

「だから言ったでしょ~。どんな形かは分からないけど、絶対に返ってくるのよ~」

「ありがとう! この貯金箱は最高だよ!」


俺は大きくガッツポーズ。

そして、胸のドキドキが止まらない中――


「よし……」


唾を飲み込み、再び貯金箱にお金を投入。

今度は『チャリン』という小さな音はしない。

なぜなら、1万円札を入れたからだ。


「これで……5千円が手に入るのか……」


俺は、胸の鼓動が早くなるのを抑えるのに必死だった。




──数日後。


再び、貯金箱の効果は如実に現れた。

実は1万円を入れた2日後、会社の送別会があり、飲み会に参加した。

自由参加だったが、転勤する上司にお世話になったため俺も出席。


そして、終盤に差し掛かり、トイレから帰ってきたら、もうお開きムードだった。

そこで、幹事が酔っ払っていたせいもあってか、俺のワリカンの飲み代、5千円を徴収し忘れていた。

なぜ、レジで気づかなかったかというと、足りない分は、その上司が払ってくれたらしい。

結局、俺は最後まで、上司にお世話になることに。


とまあ、こんな感じで、貯金箱に1万円を入れた次の日に、半分の5千円を手にすることになった。


さらに、もう一つ面白いことを発見した。

本棚の整理をしている時、偶然にも携帯用ゲーム機のソフト『レジェンド・クエスト4』が貯金箱に入ってしまった。

すると、以前ハガキで応募していた懸賞があたり、ソフトが届いた。

それは『レジェンド・クエスト2』

『4』よりも面白さが半分ぐらいという評価の『2』だった。


これは、とても興味深いデータだ。

やはり、ジェリックが言っていたように『どんな形で返ってくるかは分からない』というのは本当のようだ。


なるほど。

この貯金箱は、お金以外でも可能ということか。

物を入れても、何かしらの形で半分になって戻ってくるということか。


すごい!

この貯金箱は本当にすごいぞ!


「今度は……」


俺は、次の行動にとりかかろうとしていた。

貯金箱に入れれば、半分になって返ってくる。

じゃあ、親に頼んで定期預金の通帳を貸してもらおう。

いくらあるか分からないが、おそらく数百万円はあるに違いない。

ということは、おおざっぱに見積もっても百万円単位でのリターンがあるはず。


「あれ……」


ちょっと待てよ。

今まで気にしてなかったが、この貯金箱に入れた物を取り出すとどうなるんだ?

だって、通帳はすぐに返さなきゃならない。

どうしても、取り出す必要がある。


「なあ、ジェリック」


俺はダイエット器具で遊んでいるジェリックに尋ねた。


「例えばなんだけど、この貯金箱に入れた物を取り出すとどうなるの?」

「別にどうもならないわよ。入れっぱなしにしてようが取り出そうが、一度入れたら効力は続くわよ~~~ん」

「そうなんだ」


よし……これは、俺にとっては好都合だ。

近いうちに、通帳を借りにいこう。



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