第31話 いざ!魔王へ

 次の日の朝、センタたちはいつもと同じようにエルフの村に入った。


 待っていた村長は三人がやってくるとすぐ、箱にもうひとつの物をはめ込んだ。


 空に龍が現れゲートが開き、センタたちが入るとそこは次の村の入口の前だった。


 そして近くには魔物がうようよいた。


 それも今までの雑魚とは比べ物にならないほど大きく、今まで倒してきたボス程の奴だった。


 しかしセンタたちは既に強くなりすぎていた。


 あつしは見えている魔物達の空の方に向かって矢を放った。


 放たれた矢は空中で何本にも増えていき地上に落ちる頃には無数の矢となって魔物達を射抜いた。


 巨大化したセンタは刀を目に見えぬ早さで横に払い、切り裂かれた空気は波動となって魔物を襲い、波動が届く範囲の魔物は真っ二つに切り裂かれていった。


 村から見える範囲の魔物は一瞬のうちに倒された。


 雑魚たちより何倍も巨大で強いフィールドボスやボスもセンタたちの前ではあっけなかった。


 そしてその日は午前中のうちに四つの村の魔物とボスを退治し、最初から数えて七つめの村にやってきた。


 センタたちは村の入口から中に入った。


 そこには村長がただ一人で立っていた。


 村人もいないし家もまばらで殺風景な村だった。


 センタたちが不審な顔をしていると村長が口を開いた。


「救世主さま、ようここまでおいで下されました。ずっとお持ちしておりました。それからこの村にはもう魔物はおりませぬ」


「この世界の皆に代わり、また魔王に代わりお礼を申し上げます」


『ん?魔王に代わり?どういうことだ?』


「今私が申し上げたことをご不審に思われるでしょうが、それは次の場所へ行けばわかって頂けます」


 村長はそう言って三人を一軒の家の前に連れていった。


「この家の中へ入っていただければ魔王のいる場所への道があります。どうされますかな?すぐに行かれますか?」


 魔王との対決に劇的な場面を想像していた三人は、拍子抜けしながら顔を見合わせた。


「どうする?」


 みんなすぐにでも魔王と対決したい気持ちはあったが、既に昼になっていたので戻らなければならなかった。


「明日にします。朝の十時に来ますので」


 あつしが皆を代表して言った。


「わかりました。それでは明日の朝十時にお待ちしております」


 村長はそう言ったあと、フッとかき消すように消えた。


 あとに残された三人はキツネにつままれたような気持ちでその場所に立っていた。


「ともかく、適当な家に入って休まへん?」


 センタがそう言って近くの家の扉を開けて中を覗いた。


「入っても大丈夫みたいやで。誰もおらへん」


 そして中に入ったセンタに続いてあとの二人も入っていった。


「なぁ、これどういうことなんやろな」


 センタが言うと今までずっと黙っていたあつしが口を開いた。


「最初に僕が《これはただのお遊びか、なにか目的があるのか》と言ったことを覚えてるかい?」


 センタと凪沙はうんうんと頷いた。


「ずっと考えていたんだがこれは僕達を魔王の元へ連れてくるのが目的だと思うんだ。そして問題は魔王がぼくたちをどうしたいかなんだが……どうだい?今まで戦ってきて悪意は感じたかい?」


「ん?どゆこと?」


「ああいう魔物との戦いはもっとおぞましいものなんじゃないか?」


「そう言うたら最初はエグい攻撃もあったけどドロドロしたもんやなかったわな」


「そうだよ。途中からは強くなった僕達より強い魔物は出なくなった。ということは僕達を害する目的で作られたものではないと思うんだ」


「ふむふむ」


「そうだとしたら魔王と会うことは危険なものじゃないことになる」


「なるほど」


「ともかくここまで来たからには魔王と会わないと意味が無い。まぁ、現実の世界でそれなりに成長できたから意味がなくもないがね。そうだろ?センタ」


「うん。それはまぁそやな。剣道で親父より強くなったからな」


「ほぉ……親父さんはそんなに強かったのかい?」


「そらもぅ、ゲキ強やわ。なんせ大会で日本一になっとるからな」


「ふーん。その親父さんより強いって大したもんじゃないか。凪沙さんはどう?」


「うん。あたしも自分のことが色々分かったわよ」


「とにかく明日次の場所に行ってみよう。それじゃ俺は帰るよ」


 あつしはそう言って帰っていった。


 そのあとセンタと凪沙は二人だけの時間を過ごしていた。


「ねぇ、とうとうここまで来ちゃったね」


「うん。なんかあっけなかった気がするけどな」


「それはさぁ、センタくんとあつし君が強くなり過ぎたからじゃない」


「それはそうやねんけど。でも凪沙さんかって結構ヤバい魔法使ってたやんか」


「うふふ……」


「あ、笑って誤魔化しとる。それはそうと魔王を倒したらって約束もやねんけど、魔王関係なしに俺と付き合ってくれへん?」


「いいけどさ、私みたいに年上でもいいの?」


「うん!全然オッケーやで。って言うかさ、凪沙さん年上の気がせぇへんねんけど。可愛いしさ」


「あー、いちおうこれでも年上だよ?」


「ほんまは俺とタメなんちゃうん?証明書見してみ?」


「持ってない」


「ほら。年上って嘘やろ?正直に言うてみ?」


「そんなことなぁい!もう!」


 センタは凪沙がそう言って自分の胸を叩いてくるのを、そのまま受け止め抱きしめた。


 そして胸の中でモゴモゴ言っている凪沙の耳元で言った。


「好きやで。凪沙さん」


 その途端に凪沙の動きが止まり、顔を上げてセンタを見つめた。


「なぎさって呼んでいいよ」


「じゃ、好きやで。なぎさ」


「あたしも……」


 二人は長いキスをした。

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