第8話 別れ

 次の日の朝、俺はいつも通り妄想世界に入った。


 これが最近の日課になってる。


 そして、横にサエちゃんが寝ているのもや。


 俺が起きたのに気づいてサエちゃんも目を開けた。


「センタさま、おはよおー」


 そう言って目を閉じ、唇をとんがらかすチューの催促も恒例や。


 俺は軽くフレンチ・キスをしてから言った。


「大分遠くまで魔物退治したから、久しぶりに散歩に行こうか?」


「うん、行く!どの位まで進んだの?」


「この村と、山の半分くらいかな」


「じゃあさ、そのあたりに滝があるんだよ。行ってみたいな」


「オーケー。じゃ、そこに行こう」


 二人は手をつないで村の外に出た。


 今日もいい天気だ。


 サエちゃんはご機嫌で鼻歌を歌ってる。


 こんな日がずっと続けばいいな。


 宿屋で寝る時も、左腕にサエちゃんの頭の重さを感じながら腕枕をして、右手を背中に回して抱きしめてると、なんかこう、安心して幸せだなぁ、と感じる。


 もちろんエッチはしてない。


 って言うか出来ない。


 でもそれでいいと思ってる。


 そう思いながら歩いていると


「ほら、あそこだよ」


 サエちゃんが指さした所に確かに滝があった。


 が、そこはまだ討伐の済んでいない場所で、少し不安を感じたが、気をつければ大丈夫だろうと思った。


 今までずっとうまくいっていたので、油断していたのだと思う。


 俺は刀を取り出し、辺りに気を配りながら、サエちゃんと滝に近付いて行った。


 その時だった。


 あたりに潜んでいた魔物がいきなり襲いかかってきた。


「危ない!」


「きやっ!」


 俺はとっさにサエちゃんを引き寄せたが、魔物の爪がサエちゃんの身体を傷付けていた。


 続いて振り下ろしてくる魔物の腕を、俺は下からはらったが、浅傷しか与えられなかった。


 今までのワニと同じ姿だったが、倍はあろうかという巨体で赤黒い肌に目が真っ赤に燃えていた。


 幾度か切り結んだ末に、お互いに睨み合い膠着状態になった。


 くっ・・・こいつ強い。


 サエちゃんはぐったりとして横たわっている。


 早く村につれて帰らないと。


 その時、どこかから、一本の矢が風を切り裂いて魔物の目を射抜いた。


「グガァ・・・」


 しめた!今のうちや!


 サエちゃんを抱きかかえる俺の目の隅に、矢をつがえて放っている男の姿が写った。


 誰やろう?


 思いながら、俺は一目散に村に向かって全速力で駆けた。


 村に入って、医者はどこや!と叫ぶ俺にすぐに村長が駆け付けて医者の所へ連れていった。


 医者のベットに横たわったサエちゃんは、ずっと呻いていたが、一通りの治療が終わると、眠ってしまった。


 医者は俺と村長を見て、僅かに首を振った。


 そしてしばらくして、サエちゃんが、目を開けた。


「サエや・・・」


「サエちゃん」


 サエちゃんは俺と村長を見た。


 弱々しい目だった。


「サエちゃん、傷は浅いからね。すぐに良くなるから元気を出してね」


 俺はそう言った。


 そう言ってサエちゃんにも、俺自身にも希望を持たせたかった。


「ううん、もうダメ。分かってるの」


 サエちゃん・・・


「お爺さん、ゴメンね。サエ・・・」


「うんうん、分かっちょる。喋らんほうがええ」


「センタさま、ゴメンね」


「何を言うんや。元気になってまた一緒に花を摘みに行くんやで?それまでに、全部退治しとくからさ」


「うん・・・」


 サエちゃんはうっすらと笑った。


「センタさま、ありがとう。サエ、楽しかったよ」


「センタさまが来てくれてから、一緒に居て幸せだった」


「センタさま、お願い。村のみんなのために魔物を退治してね」


「うんうん。約束する!」


「ねぇ・・・キスして」


 俺はそっとサエちゃんの唇にキスをした。


「センタさまに・・・サエの初めてをして欲しかった・・・」


 サエちゃんは俺の耳元でそう囁いて目を閉じた。


 サエちゃん!


 サエちゃーん!


 そしてサエちゃんは消えていった。

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