第7話 サエちゃんと花摘み
次の日の朝、妄想の世界に入った俺は、サエちゃんと村の外へ花を摘みに行った。
「わーい、村の外に出るの久しぶりだー」
サエちゃんはご機嫌だった。
「昔は村の外に出ても大丈夫やったん?」
「うん。村の近くにはいなかったんだよ。よくお母さんに連れてきてもらったんだ」
「じゃ、またおかあさんといっしょに来れるね」
そういった途端にサエちゃんの顔が暗くなった。
「お母さん、死んじゃったんだ」
え・・・
「魔物に殺されたの。お父さんも・・・」
そうやったんや。
「じゃ、今は誰と暮らしてんの?」
「お爺さんとだよ。村の村長さん」
ええー!
俺はなんか複雑な気持ちになった。
自分の孫を、俺みたいな奴の相手をさせてええんかいな。
でも、この娘も寂しい思いをしてるんやろな。
そやのにいつも明るくて。
俺は楽しそうに花を積んでいるサエちゃんを見ていていじらしくなった。
この娘を幸せにしてあげたい。
こんな世界の中やから、何をしたらええかわかれへんけど。
そう思いながら見ている俺の目の前で、サエちゃんは目に付く花をどんどん積んでいって、すぐに両手がいっぱいになった。
「持ったげようか?まだつむやろ?」
「ううん、いい。あんまり長く外に出てるとお爺さんが心配するから」
「そっか。じゃ、村に戻ろうか」
「うん」
うなづいてサエちゃんは手をつないできた。
二人で手をつなぎながら村に入って行くと、向こうから村長がやってきた。
それを見つけたサエちゃんは村長の所へ走っていった。
俺はサエちゃんの背中に
「俺は魔物退治に行くからねー」
と、声をかけ
「うん。頑張ってねー」
という声を聞きながら、村の外へ出ていった。
それからの俺の毎日は、妄想の世界と鉄棒の素振りと剣道の練習の繰り返しになった。
ああ、夏休みの宿題ももちろんやる。
素振りは二百回振れるようになった。
そして最近、剣道の練習で竹刀が軽く感じるようになり、激しい動きの中でも腰がふらつくことがなくなってきた。
それにつれて、妄想世界の魔物退治も捗るようになってきた。
今はもう、ボスのいる山と村との半分くらいまで進んできたが、いつまでも雑魚ばかり倒してても埒が明かへん。
早くボスを倒して村の人やサエちゃんを安心させてあげたい。
そう言えば、あれからサエちゃんと村の外へ出ていない。
この辺りにも、サエちゃんを連れて来てあげたいな。
よし、明日の朝連れてきてあげよう。
俺はそうおもった。
しかし、それが間違いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます