ex. 一日遅れのメリークリスマス! 2
次に目を覚ますと、私は自分の部屋で寝かされているようだった。
「んん……?」
顔を横に向けると、見覚えのある家具が目に入る。
「目が覚めたか」
「きゃっ」
いきなり、視界いっぱいのドアップで崇さんの顔が割り込んできて、私は驚く。
「崇さん……?」
体を動かそうとして、素肌に布団のシーツが触れる感触に気付いた。
「あ、あれ、もしかして……」
私、今、素っ裸……?
恥ずかしくなって、布団を持ち上げ口元まで隠す。
「覚えてるか? 風呂で倒れたんだ」
「あ、そういえば」
「今井さんは家政婦の仕事で忙しいから、茜の目が覚めるまでオレが付き添ってたんだ」
「ありがとうございます」
「いや。のぼせただけだとは思うが、もう大丈夫そうか?」
「あ、はい。たぶん」
動いてみないと確証はもてないけど、今のところ気分はよいし、めまいも感じない。おかしなところはない。
おそらく横になっている間にのぼせは治まったのだろう。
「それなら先に下に行ってるから、茜も着替えたら来いよ」
「わかりました」
布団の中で、部屋を出ていく崇さんを見送った。ドアが閉まり、一人になる。
「え、ちょっと待って」
そっと布団を持ち上げて、自分の体を見る。うん、下着も何もない。真っ裸だ。
お風呂場で倒れた私がここにいるってどういうことだろう。誰が部屋に運んだんだ。
そこまで考えたら、声にならない声を心の中で上げた。それってもしかして、もしかして……崇さんに運ばれたってことよね!?
「わああああ」
恥ずかしすぎて、布団を頭から被って自分を隠す。今の私を見る人なんて誰もいないとわかってはいるけど、この気持ちをどうしたらいいんだ……!!
「わ、私、見られたの……?」
裸を、崇さんに。
もう嫌だ。恥ずかしすぎて、死ねる。どんな顔で崇さんに会ったらいいんだ。
気まずいと思いながらも、いつまでも部屋にいるわけにはいかない。
ジーパンにカットソーを合わせて、上から分厚いセーターを着てしっかりと防寒した私は1階へ下りた。リビングのドアをそっと開けて、中を覗く。
崇さんはクリスマスツリーを設置するところらしく、一度置いて、また持ち上げて置き場所を変えていた。最終的に、窓のそばに飾ることに決めたようで、窓際に置いていた。
崇さんの胸元まである大きなツリーだ。
「あ、茜! 前に買った星のオーナメントを持ってこいよ」
「は、はい!」
私に気づいた崇さんに呼びかけられ、ドキッとしてしまう。
私は慌てて2階の自室に舞い戻り、扉を閉めた。扉にもたれかかって、はあーっと息をつく。
胸がドキドキしていて、顔が赤くなっていないか心配になった。頬を触ると、少し熱い。
気を緩めると崇さんのことばかり考えそうになるので、私は頭を横に振って追い払おうとした。
「それより、オーナメントね……」
買ってもらったオーナメントは紙袋にまとめて入れたままだ。机に置いてある紙袋を手に持った。
リビングに再び戻ると、崇さんは他のオーナメントの準備もしていた。何も飾りつけられていないツリーのそばに広げられている。サンタさんにトナカイ、ボール、ベルなどだ。
「カラフルで可愛い~!」
「オレはセンスないから、茜が適当に飾り付けてくれ。オレは最後に電飾をつけるから」
「センスは私もないけど……」
オーナメントで飾ることはとても楽しそうで、ワクワクしてきた。
早速、ボールのオーナメントをツリーに取り付けていく。買ってもらった星のオーナメントも忘れない。続いて、サンタさん、トナカイ、ベルと飾り付けていった。
素っ気なかったツリーがどんどん可愛くなっていく。
最後に、たったひとつのトップスターを手に取った。それをツリーの頂点に差し込む。
「できた!」
「おし。じゃあ電飾を巻いてっと」
崇さんはツリーに電飾を巻いていき、スイッチを入れる。赤や青、緑、黄などの光が灯る。
「うわあああ」
初めて自分で飾り付けたツリーはとても綺麗だった。電飾の明かりで、なんだか幻想的な雰囲気になる。
今まではクリスマスというと、一人寂しく過ごし、誕生日も忘れ去られたような気分になってしまい嫌だった。だけど、今日は準備するだけでもとても楽しくて、皆がクリスマスを好む理由を理解した。
しばらくツリーを眺めていて、私はふと気づいた。星のオーナメントの代金は確かお父さんが出してくれたはず。
「もしかして、この星のオーナメントが今年のクリスマスプレゼントなのかな?」
ツリーからぶら下がっている星の一つに手を伸ばした。
「ああ、そうかもな。今年のプレゼントは何をあげたら喜ぶだろうと迷ってたみたいだ。だから、クリスマスマーケットで茜が欲しがるものがあれば、プレゼントしてくれって言われたんだ」
「なるほど」
「ついでに言うと、このツリーも他のオーナメントも全部、親父さんが買ってきたんだぜ」
「え、これって家にあったツリーじゃないの?」
私は崇さんの顔を見たあと、もう一度ツリーに視線を戻す。
母が生きていた頃のことはほとんど覚えてないけど、多くの家庭でクリスマスを祝うと思うので、おそらくわが家もツリーを飾ってクリスマスを祝っていたはずだ。
なので、家にある古いツリーやオーナメントを引っ張り出してきたのかと思っていた。
「茜が幼い頃は、ツリーも小さなものを飾ってたんだってさ。この機に大きなものを買いなおしたらしい」
「そうなんだ……あとでお父さんにお礼を言わなきゃだね」
「ああ。嬉しそうな茜を見たら喜ぶと思う」
「そうかな」
「そうだよ」と崇さんが優しい顔で微笑むから、なんだか照れくさくなってしまう。
「お父さん、早く帰ってこないかな」
「今日も仕事だからなー。帰宅は夜か。残念ながらまだまだだ」
そっか、と笑いかけたところで、ダイニングから今井さんに呼ばれた。
「茜ちゃん。遅くなったけど、お昼を用意したから食べてちょうだい」
「すみません、ありがとうございます」
言われて、お腹が空いていることに気づく。昼前に起きたから朝ごはんを食べそびれたし、今はもう午後の2時すぎだ。空腹で当然だ。
私は食卓についた。
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