第4話

ああ、私は何てことをしてしまったんだ。


1人だと思っていたのに、中村さんが来て激しく動揺して、あんなことを。

それに一瞬「こっちに来るな」と心の声が聞こえた気がする。

あれは何?誰?

もしかしたらこれがお母さんが言っていた「男になっては駄目」ということなの?

ごめんなさい。ごめんなさい、お母さん。


お母さんは元々身体が丈夫ではなかった。

お父さんは仕事が忙しいと言って、あまり家に帰ってこなかった。

そんな中、宗が5歳の時にお母さんが倒れて入院した。

重い病気ではなかったが、お母さんは塞ぎ込んでしまった。

結局半年後に退院したが、その間お父さんは1度もお見舞いに来なかった。

お母さんは初めは泣いてばかりいた。

次第にはお父さんを責める話ばかりするようになった。

あまり接してはいなかったが、お父さんのことを酷く言われるのは5歳の宗でも傷ついた。

お父さんの悪口を散々言った後、決まってお母さんは言うんだ。

「宗ちゃん。宗ちゃん。可愛い私だけの宗ちゃん。男になっては駄目よ。いつまでもいつまでも、私だけの可愛い宗ちゃんでいてね。ママをずっと守ってね。男になっては駄目よ、宗ちゃん。約束よ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る