第6話 一つ、もしくは二つ以上の嘘

「部活行こ、雄介!」


 木曜日の放課後。図書館から出ると、神楽坂が待ち構えていた。俺は眉を寄せる。


「よく俺がここに居ると分かったな」

「女子ネットワークがあるから!」

「なんだそれは……」


 任意の生徒の現在位置が分かるほどの性能があるのかよ。怖い。


「雄介って、いつも何の本読んでるの?」

「難しい質問だな。色々あるぞ」

「今読んでるのは?」


 歩きながら少し悩む羽目になった。数学では曖昧あいまいすぎるし、時系列モデリングでは分からないと言われそうだ。分かりやすく言うなら……。


「株価を予測するための本だ」

「え! 高校生が株なんてやっちゃだめだよ!」

「いや、べつに問題ないぞ」


 実際俺もやってるからな。全く儲かってはいないが、大きく損をしているわけでもない。


「あれから鈴の音は聞いたか?」

「ううん、全然」

「朝も?」

「うん」


 やはり、七時頃に鳴る何かなのか。それとも、時刻なんて無関係なのか。何にせよ、マイクによる録音結果を調べてみれば分かるだろう。


 いつも通りのとりとめもない話を聞いているうちに、部室に着いた。他の三人は既に集まっていて、何事か話し合いをしていた。


 中に入ると、宮崎がくるりと振り向いた。


「ごめんなさい!」


 くしゃりと顔を歪め、手を合わせて謝る。その隣では、加藤がバツの悪そうな表情で立っていた。


「急用だなんて、嘘ついて。デ、デートって言うの、恥ずかしくて……」


 顔を赤くして俯く。……正直言うと、可愛い。


 どうやら山川が、月曜の件について先に話を聞いてくれていたようだ。

 しかし、本当に付き合ってたんだな。何となくショックを受けたような気になって、俺は微妙な表情で立ち尽くしていた。


「そんなにショックだったの?」


 神楽坂に責めるような目で見られ、俺は思わず顔を背けた。……いや、責められる筋合いは無いぞ? 無いよな?


「まあまあ、そんな謝ることないって。二人が付き合いだしたなんて、喜ばしいことだしな!」


 山川が腕を組んで頷く。俺は口元を歪めて言った。


「お前も月曜来なかっただろう」

「いやー、悪い悪い」


 全く悪いと思っていなさそうな顔で答える。

 そう、三日前の月曜、結局こいつは神楽坂の家に来なかったのだ。用事が長引いたとかで。……まさかそれも嘘じゃないよな。人間不信になりそうだ。


「ま、とにかく。二人が休んだのは、森とは無関係だったわけだ」

「そうだな。超常現象じゃなくて、がっかりしたんじゃないのか?」

「さすがにたたりはごめんだよ。俺だけならともかく」


 肩をすくめられた。意外と……でもないかもしれないが、部員のことはちゃんと考えてるんだな。


 山川は、俺の肩をぽんと叩いて言った。


「あとは鈴の件だけだ、任せたぞ」

「なんで任せるんだよ」

「謎は解けそうなんだろ?」

「ばっちりだよ!」


 何故か神楽坂が答える。いや、まだマイクを設置しただけで、全く何も分かってないぞ? どういう話になってるんだ?


「というわけで、今日は分担しよう! 宮崎と加藤は、次のターゲットを二人で考えておいてくれ!」

「え」

「は?」


 山川の言葉に、二人は驚いた顔をしていた。


「二人で居たいだろうしな! 頼んだぞ!」


 うんうんと何度も頷く。宮崎は、さらに顔を赤くしていた。

 ……それはおせっかいと言うんじゃ……まあいいか。


「森は調べないのか?」

「ケチが付いちゃったしね。しばらくはめとくよ」


 山川は肩をすくめる。ま、その気持ちも分かる。


「残りのメンバーは何をするんだ」

「木梨と璃愛は、鈴の件の調査を頼む」

「まあそうなるか。山川は?」

「俺は別に調べ物があるんだ。終わったら追いかける」

「分かった」

「早く行こ!」


 神楽坂が俺の腕を引っ張る。ん? この状況、前にも見たような……。


「あとから来るんだよな?」

「おう! 終わったらな!」


 山川は親指をグッと立てた。何故かさらに不安になりながら、俺は引っ張られていった。

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