第15話 歓待之宴

次の日の夕方。

青羅王妃と鳴韵王公主を歓待するための宴が開かれていた。

そこには帝室に連なる人々が揃っていた。

「凰琳、そなたは今日も美しいね」

黎翔は皇太子としての正装、濃紫の衣に身を包み、龍の意匠を彫り込んだ冠をかぶっていた。

「まぁ、鸞様」

凰琳は顔を赤らめた。今回はということになっているので、淡い桃色の衣装を纏っていた。

宴席に行くと、栄貴妃が声をかけてきた。

「殿下、青妃様は側妃としてお迎えになりますの?あの御方はよく私の所に訪れてくれる孝行な御方でしたわ」

「それは…四夫人だからですわ」

「あら、李修媛?どうしたの、険のある表情をして…」

そこに恵王姫を連れた檸賢妃が入ってきた。

「そうね、青妃様は下位の者に手酷い。大層気位も高くていらすようですし…私としては、殿下の妃には…」

黎翔はそこに集まる女性達を見回し、安心させる声音で言った。

「青妃は妃として迎え入れるつもりはございませんよ、母君方。我が妃は凰琳ただ一人で十分です」

そう言って黎翔は凰琳の肩を抱き寄せた。

「鸞様…」

そこに人を探しているような声が聞こえた。

「…しょうっ!照っ!どこにいるのですっ!」

場がざわついた。鳴韵の隣に立ち、話していた澄昭儀が眉をひそめて問うた。

「青妃様?どなたをお呼びですか?」

「妃が1人、照ですわ。ほら、照!妾に飲み物をおつぎなさい、喉が乾いたわ」

凰琳は義父を仰ぎ見た。すると、暎帝からは頷き返された。

「聞いているのですかっ」

「お断りいたしますわ、従姉様おねえさま

曇りのない笑顔を向けられた鳴韵はあっけにとられていた。

「わ…妾は、皇太子妃よっ」

「まだお認めいたただいていらっしゃらないはず。」

焦った鳴韵は暎帝の前に飛び出した。

「た、大家っ。お認めくださいませっ!妃嬪の皆様にお伺いするお認めをっ」

暎帝は厳かに告げた。

「皇太子妃とは何ぞや?」

「皇太子殿下を敬い支え、国の太平と安寧を願い、宮人みやびとを統ずる者にございますっ」

「…許可しよう」

「妃嬪の皆様にお伺い申し上げます。妾を子妃とお認めくださいますかっ…?」

宝座に座っていた彩結が立ち上がり応えた。

「妃を代表し、私が答えましょう。皇太子の心に添うと」

それを見た黎翔が立ち上がって表情を消した。まるで氷のような視線で鳴韵を見やった。

「皇太子たる我の妃にならんとする者は誰ぞ?」

怯えたように定型の言葉を鳴韵の唇が紡ぐ。

「遠国青羅の王が姫、灑王公主位を戴く者。青鳴韵なり。妾を…お迎えくださいますか…?」

「不可。我が妃よ、隣に」

凰琳が静かに隣に立った。

「照っ。待ちなさいっ」

冷ややかな口調で凰琳は言った。

「…無礼者。私は瑞王公主、皇太子妃たる照凰琳です。貴女あなたが敬愛する叔母の娘ですわ」

鳴韵は絶句した。

「凰琳」

鈴を転がしたような声がして、胡蝶の歩揺を挿した女性が近づいた。

「お母様…」

凰琳は深く礼をとった。

「久しいわね、もう名実共に皇太子妃なのですから毅然きぜんとしていなさい。そしてよく皇太子殿下にお仕えしお支えしなさい。殿下は妾の弟帝の御子であり、そなたはですからの自覚を。灑葉には困ったものね、姫すら教育出来ないなんて…」

義母上ははうえ

「まあ、皇太子殿下。お久しゅう存じます。義母ははと呼んでいただけるとは光栄ですわ。ねぇ、殿下。」

隣には照王が黒紫の衣を纏って立ち、肯定の意を示した。

「ですが、凰琳に照の姓であるから支える者たれとはあまりに酷なのでは?」

照王夫妻は揃って困惑した表情を浮かべた。

「鸞っ、それ以上この場で申すな!」

先帝が慌てたように大声を出した。

「…理由があると言うのですね。我は知りたい」

「明日にせよ…余は院宮に戻る」

「父上、お見送りいたします」

皇帝が立ち上がって拝礼したとなればその場の全ての人々は礼をとる。

先帝が立ち去り、何事もなかったように宴は続いた。

その時凰琳は木陰に1人佇たたずみ呟いた。

「明日、帝室に動揺が走る…そんなことは私は望んでいないのに…なんて…知られたくはないのにっ…!」

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