第10話 側侍之職

暎帝と彩結について皇帝内々の執務室に入った凰琳は入り口で跪いた。

席に座った2人はその姿を見て微笑んだ。

「このような内々の場でまで状元として振る舞わぬでも良い。さぁ、余の前に座りなさい」

「ありがとうございます、お義父とう様」

凰琳は一礼して席についた。

「立派な姿でしたよ、凰琳。先程のお姿をお義姉ねえ様にお見せしたかったわ」

彩結の言う義姉とは、凰琳の母で暎帝の姉の瑞華ズイカ長公主チョウコウシュ杏英アンエイのことだ。

「凰琳、側侍とは何かと聞きたいのだろう?」

「えぇ、恐れながら官名を聞き及んだことがございません」

「私と大家の連絡係と思ってください。昔の私も就いた職ですのよ。まつりごとの表と裏を学問として以上に肌で感じるために」

「しかとその職を全う致します!」

そこに先帝と皇太后が入ってきた。

皆が立ち上がろうとすると止まらせた。

「礼は良い。大家、提案があってきたのだ」

蓉太后が絹団扇の影で微笑んでいる。

「何でしょう?父上」

「凰琳に学宮で講義をさせてみてはどうか、とな。もちろん、状元としてだが…講師達の中で状元蓉氏は女学で礼儀作法を学んでいる故講師をさせてもらえるよう大家の許しが欲しいとなっておるそうだ」

「凰琳は私達の孫でもありますから、人一倍礼儀作法に厳しかったはず。あの杏英に躾られているのですもの」

その言葉を聞いて4人程遠い目をした。

杏英はとても厳しい人のようだ。

「そなたなら上手くやるだろう。余は異論ないが…?」

凰琳は薄く微笑んだ。

「お任せを。あの仕込みの礼儀作法を学徒へ伝えます」

そうして、翌日に特別講義を行うこととなった。


翌日。

学宮はざわついていた。それもそのはず、同じ学徒の状元が講義をするのだから。

「皆様、席にお着きを」

「はいっ、状元」

戸惑いながら凰琳は口を開いた。

「本日は私が講義をいたすことになりました。お伝えするのは帝室の身分制度、礼儀作法です」

こうして凰琳の講義が始まった。

「皆様はためしを通られてここにいる。ですから鳳城での仕組みはご存じでしょう。六官のおさ方、陛下のお側でお仕えする方々…丁殿などがお就きの側近などは陛下へ跪拝をするのが基本です。なれども、その他の方々は特別なことがない限り伏拝を求められます。妃嬪の方々に対しても同じですわ」

学徒の1人が質問した。

「同じ身分や近い身分には?」

揖礼ユウレイ、軽く礼をとりましょう。跪く必要はございません。わからないことは質問なさってくださいね」

「はいっ!」

女性の学徒が手を挙げた。

「私、後宮職に就きたくて。後宮の身分とは…」

凰琳はふわりと笑んで姿勢を正した。

「中々明かされないのに知っておらねばならぬ世界…皆様にも関わってくることがありましょう。表の政と後宮の世界は繋がっている、とよく言われております故、お話ししましょう」

凰琳は語り出した。女学徒が後宮職に就いたとき、天寿を全うできるように…

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