第9話 皇上御見

薄紫の領巾ひれをゆらりと揺らして近づくのは蓉太后だった。その隣には先帝が厳しい表情で立っていた。

「院上…娘娘ニャンニャンに…ご挨拶、申し上げます…」

九嬪と学徒は伏拝した。

「ご挨拶申し上げます」

先帝の鋭い声が響いた。

「立て!余が皇太后の縁者でなくともいつまで冷床に跪かせたか…!余はそなたらにかようなことをしたか…?」

全員立ち上がったが九嬪に習い、頭をあげなかった。

「皇后と皇太子妃に後で申し上げておきますからね。後華宮の管理は皇后の役目。行き届かぬというなら戒めねばならないわ」

「そ…それはっ…義母上様…」

蓉太后は微笑んで言った。

「皇后を敬愛するならしかと相応しく振る舞いなさいな。ついておいでなさい。大家をお待たせしてしまう」

先帝一行が九嬪を連れていった。

廷宮テイキュウ大殿タイデン。朝廷の儀式を行う場である。

扉を護る禁衛軍の将官に檸東宮傅補佐が声をかけた。

「学徒の皇上御見に参りました」

将官は優しい目線を向けた。

「檸東宮傅補佐。状元最後の仕事ですか?」

「えぇ、新状元がおります故…蓉氏、ご挨拶を」

凰琳は一礼した。

「状元、蓉玉蘭と申します」

「ショ…!?」

将官は凰琳の正体に気づいたようだ。凰琳は口許に指をあて、言葉をおさめさせた。

「励まれてください、蓉状元」

「はい」

将官は咳払いをひとつすると、中に入るようにと言った。

「皇太子殿下もご臨席なさいますぞ」

呟くように伝えられたその言葉に凰琳は困った表情をした。


大殿の中に入ると席次順に並び、跪拝した。

一段高いところに座る四妃達の会話が耳に入る。

「檸賢妃、前方にいるのは弟君かしら?」

「そうですわ、栄貴妃様」

「東宮傅補佐なのでしょう?」

「えぇ、家の誇りですわ…高淑妃様」

そこに先触れの鈴が鳴り、色とりどりの衣を纏った妃嬪達は立ち上がって礼をとった。

「大家、娘子、皇太子殿下のおなりー」

もっとも高い段に3人は座った。

それを確認すると、檸東宮傅補佐が学徒の就学の口上を述べていった。

この国では、三魁には就学中から官吏としての位階が与えられる。その位階を宇南の父、丁冢宰が発表した。

「探花、曹氏。禁衛将補佐」

「拝命しますっ」

今成は元気良く言った。

「榜眼、丁氏。側近補佐」

「拝命します」

宇南は穏やかに役をもらった。

「状元、蓉氏。側侍補佐」

「は…拝命、致します…」

その後儀式は続き、解散となった。

黎翔が途中で退出し、暎帝と彩結に挨拶をして終わろうとしたその時。

「状元、共に参れ。余はそなたに話がある」

「御意」

暎帝の後ろについて大殿を退出した。

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