義父の蔵書

その年の盆に帰省したとき、梅雨から初夏に空気が変わる頃に亡くなった義父の本棚を整理し、ダンボール箱で二桁に届く量を古本屋に買い取りに来てもらった。


箱詰めの際、それらの顔を見て一部はいただいて帰った。「顔を見て」というのはタイトルや表紙だけを見て中身までは確認していないということだ。レコードのジャケ買いではないが、本でも同じようにする人はいるようだ。ただ今回は頂戴したわけだが。


本棚はリビングにはめ込まれ、ガラス戸がヤニで黄ばみ、場所によっては背表紙すら読み取れないほどほぼ擦りガラス状態になっている。

煙草が苦手な自分はこれまでガラス戸を動かすことを避けてきた。たまに眺め、気になるタイトルもあったが黄ばみに触れる気にはならなかった。なんのことはない、当布でもすればよかっただけのことだが、そこまでの欲求もなかったことの言い訳に過ぎない。


新聞社に定年まで勤めあげた義父は写真が趣味ということは知っていた。だが年に二回、盆と正月の数日間だけ顔を合わせるというだけではそれ以上に深く知ることはなかった。加えて娘が帰省しようとも、つきあいで撮影会やボランティア活動に出かけてしまい、ゆっくりと話すことも少なかった。まして、これだけ集めた経緯や今後どうするつもりかだったなど---。


分類した本たちは写真集や仕事がら新聞関連の史料はもちろんのこと落語や漢字雑学、東京の散策ガイドが多く、意外だったのはホンダの本田宗一郎氏とソニーの井深大氏に関する書籍が多くあったこと。


いまはその理由を訊くことはできない。

裏表紙うらには妻の旧姓での蔵書印が押されていたが、その印章もまだ見つけられないでいる。

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