義父との別れに納めるもの

他界した義父との別れが近づいてき、棺に納めるものを妻と義姉が考えていた。

ふと、義父は写真撮影が趣味だったことを思い出し、カメラのストラップを入れてはどうかと提案すると、ふたりとも賛成してくれた。

リビングに置かれたままのバックからカメラを出してみる。

愛用の一眼レフカメラも少なくとも半年以上は窮屈に納められたままだったろう。

思い返してみるとここしばらく、帰省した時にこのカメラを構える義父の姿を見た記憶がない。

たしか2年近く前の夏に帰省した時「やあ、最近カメラからパソコンに画像を取り込む方法を忘れちゃってさぁ」と言いながら、愛機を手に持っていたのが自分が最後に見た姿だったのかもしれないし、ひょっとしたらそのまま使われないままだったのかもしれない。

ストラップを外しながら「最後に何を撮ったかひょっとしたらメモリに残っているかも」と思い、電源を入れてみることにした。


しかし、スイッチをいれても起動しない。バッテリーの充電が空っぽのようだ。

それではとバックの中やパソコン周りで充電器を探すがなかなか見つからない。2階の義父の部屋にあるかもしれないと思い、妻と結婚して約20年、初めて義父の部屋に足を踏み入れた。


南向きで初夏の陽の差し込む、もともと荷物はなかったそうだが、思った以上にがらんとした部屋に写真に関する本やラジカセが雑然と置かれ、その中にカメラの箱も含まれていて、箱を開けると望んだものがそこにあった。


さっそく充電をし、カメラの電源を入れてみる。

撮影モードから再生モードへ、画面には「画像データがありません」という文字だけが表示された。


別れの際、棺にはストラップや彼が撮影した写真を数枚、カメラ本を納めた。

アルバムから写真を選ぶ時、50冊近くあるアルバムすべてをチェックしたが、不思議なことに何度となく観せてもらっていた多くの富士山の写真が一枚もなかった。これには一同驚いたが、皆にあげたからだろうと結論づけた。

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