義父との別れを記憶に刻めない義母

年末も押し迫った昨年末28日に緊急入院した義父が、先日他界した。

救急搬送されたその日、妻が義姉からその一報を受けたのは夜だったが、軽い認知症の義母は暗くなっても義父が帰ってこないことを不思議に思っていた程度だったという。

昨秋から一人暮らしをはじめた義姉に、病院から連絡が入り、はじめて事の次第が分かった。

義父はその日、胸が痛いとかかりつけの内科医に診察に出かけたところ、大動脈解離を診断、大学病院に緊急入院することとなった。義母も同伴していたのだが、すでに彼女の記憶からそこは抜け落ちてしまっていた。

正月、妻と子どもと4人で帰省したが、義母は義父が入院した状況を記憶に刻むことはできていなかった。自分たちがいた期間、彼女の中ではいつまでも大晦日だった。

途中、病院に見舞いに行ったのだが、小学生以下の面会はできないという病院側の規則のため、自分は次男とともに院外で待つことにした。今思えば、無理をお願いしてでも次男坊とともに面会させてもらうべきだった。

その後、容態は安定していたが、寝たきりでの食事摂取のため、春先に誤嚥性肺炎を患らい、徐々に体力は奪われていった。

それでも妻が見舞いに行くと元気そうに「この子の旦那わね、名古屋で天ぷら屋をやってるんだよ。」と看護婦さんに自慢げに話していたそうだ。

5月上旬、病院から転院の話がきた。先方担当者から二つの候補があがり、その週末、妻は両院を見学に行く予定だったが、容態が突然に急変した。

仕事を早退し新幹線で帰省した妻。間に合ったが言葉を交わすことはできなかった。

年明けからホームに入居した義母はこの状況を繰り返し確認する。帰宅し、そこで横になっているのが自分の旦那ということを刻み込むことはやはりできなかった。

ホームに戻り、旦那はもういないと聞かされると涙し、散歩から帰ると忘れているそうだ。

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