一◯年前のちょっと前
茜と苑子と千歳の出会いは、胸がときめくような、それこそ古典的なベッタベッタな運命的でもなんでもなかった。
茜は入学早々、深窓の令嬢だの、今年のミス早応は高坂茜だの、入学生の間でも在学生の間でも、こそばゆい噂が囁かれるようになっていた。まぁ、話が勝手に一人歩きして、根も葉もない尾ひれがついくこともなかったわけではないけれど。
打って変わって、千歳はというと、そんな噂をされるはずもなく稀有な人物ではなく、大層地味で堅っ苦しい性格が祟って一人で過ごすことが多く、いつも誰に話しかけられている茜とは決して関わることのない……ましてや、目すら合うこともない雲の上の存在なのだと、こんな庶民とは住む世界が違うのだと勝手に決めつけていた。
それは、苑子も同じだった。
だから、どこのサークルからも呼び止められても丁重に断り続けていた『孤高の女王』が、なぜひっそりと陰日向で活動している漫研の新歓コンパなんかに参加しているのか疑問が付きまとい、理解したくてもしたくなかった。
けれど、やっぱり注目の的であることは変わりなく、漫研の男性陣に今でこそ通じる『オタサーの姫』扱いされるのも目に見えている訳で、集られた茜が困り果てているところを、たまたま偶然その場にいた苑子が払いのけたというだけのことだった。
そして、隅っこのほうで一人大人しく、烏龍茶を飲んで我関せずの千歳が、たまたま偶然いたことも。
茜と苑子は、千歳の前と横を陣取り、女三人寄ればなんとやら。やっぱり趣味の話になるのは鉄板で、フィールズクロニクルの新作が発売されて間もないこともあり、システムがああだ、シナリオはこうだ、キャラクターデザインもどうだ、というよりは、どの男性キャラとのカップリングについて腐っ……いや、熱い話で花を咲かせ、盛りに盛り上がった。
周囲の男性陣はドン引きで、その年の男性の新入部員はゼロという漫研にとって、嬉しいのか悲しいのか大変複雑な新歓コンパになっていたことは、当時の彼女たちは知る由もない。
それから、早応大の漫研は○○○○が集まるというジンクスを、入部してから知ることになるけれど。
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