喧嘩するほど……
時をさかのぼること、約一○年前。
とある大学のとある部室のとある二人。
「私の漫画の方が、絶対面白いわよ!」
「この際だから言わせてもらうけれど、
季節は
「はぁ? よりにもよって、それを千歳が言うの、千歳がぁ~!? だいたいね。千歳の作品には愛情が全く感じされないのよ!」
「………………。苑子は、ただ自分がやりたいようにやって、読者を意識してない。それを愛情というのか甚だ疑問ね。だから、私には何も伝わってこない」
「千歳にはこの私の作品の魅力なんてわからなくて当然よ。それに、その読者のことを意識しすぎて、自分のエゴを出し切れてない。自分が何を描きたいかも把握していないから、物語の何から何まで説明がなさされて、読んでるこっちはつまんなくなって、むしろ苦痛を感じるくらいね。キャラクター達も台詞を言わせれてる感があって、活き活きしてないわね」
言いたいこと言いたいだけで、論点をずらしまくるとある二人の一方、鬱陶しいぐらい暑苦しい熱意というより対抗意識を燃やす、黒髪ボブカットの女性の名前を
後に
でも、当時三◯までに結婚……という願望を抱いているけれど、二五を過ぎてからの時間があっという間だということを、彼女はまだ知らない。
「………………」
とある二人の片割れ、自分は何もしていないのに勝手に突っかかられて、ほとほと呆れてものも言えなくなり、冷静に考えると自分も相手と同類なのかと気づいてしまって、さらに呆れ返りそうになる、少しクセ毛のある茶髪でメガネをかけた彼女の名前を
後に恋メトで『純情ヘクトパスカル』がアニメ化する際に、懲りもせず喧嘩するほど仲がいいを体現しているのかは一先ず置いておいて、一○年の歳月が経っても犬猿の仲は変わらず、不死川書店アニメ事業部プロデューサー、その人である。
とはいえ、すでにお互い名前で呼び合うほどの仲が良いことは周知の事実なので、触れていいのかどうかは本人達次第ということで、この際気にしてはいけない。
「ま、まぁ、二人とも落ち着いて」
「これが落ち着いてられますか」
「茜は少し黙ってて。余計に話がややこしくなる」
「ど、どうすれば……」
そんなとある二人から、いつもなにかとある三人になっていたのは、陰とか存在感とかフラットな対応をするからとか、そういうわけではなく……ただ単に待ち合わせをしていて、そのとある三人目が最後にやってきた頃に、苑子と千歳がいがみ合いの口喧嘩に参加するのが、そりゃもう
千歳に
後に『メディアミックスの女王』へと変貌し、業界内外問わず
「茜はさ、私の漫画の良さをわかってくれるわよね、ね!?」
「茜に苑子の漫画が理解できるとは到底思えないわね。その分私の方が誰にでもわかりやすく描いているから、茜みたいなド天然で世間知らずな箱入り娘でも、楽しめると思うわ」
「はぁ? あれを茜が楽しめるですってぇ? そりゃ、楽しめるでしょうね~、台詞を読まなければ、誰でもわかる絵本として楽しむのならの話だけれど!」
「……………ク◯しながら◯ね」
「ねぇ、二人とも……お互い貶し合ってるところ悪いんだけど、私にも少しは失礼だって思わない?」
彼女たちは、先週催された漫研の新歓コンパで出会って以来の、仲良しである、たぶん。
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