第2話 突然の雨と透けたブラウスと三角関係
「げぇ、まじかよ?」
月曜日、ロッカールームから外を見て
「俺傘持ってきてねえよ」
「ああ」
斗夢の言葉に内人が返す。内人はサッカー部のエースだ。今日も遅くまで練習して、あとは着替えて帰るだけというところで、きつい雨が降り出した。
「なんだと? この野郎!」
「誰が
「ああ?」
「大体てめえも傘持ってきてねえんだろ?」
その斗夢の返しに内人は心底勝ち誇った顔で、自分のロッカーから一本の傘を取り出した。
「は? ずりぃ! なんで持ってんだよ? くそが!」
斗夢は毒づく。しかし、急に態度を変え頭を下げてきた。
「どうかミトくん、その傘をお貸し願えませんでしょうか?」
「ああ?」
心底気持ち悪いといった風に内人は切り捨てた。
「んだよ? くそが! この雨の中ずぶ濡れで帰れってのか? 人が
「ああ」
「もう、くそ! お前には頼まねえよ! むっつり伯爵! 滑ったトラックに巻き込まれないようにせいぜい気をつけて帰れってんだ」
そこまで言うと斗夢はぶつぶつと呪いはじめた。
「トラック突っ込め……、トラック突っ込め……」
「ああ……」
内人はその様子を見て溜め息を
内人が雨の中、帰路を歩いていると鯛焼き屋のスタンドの下に見知った二つの顔を見つけた。
「うー、こげん雨ば降るって聞いとらんよ」
「ばってん、そもそも
「料理部ば友達とあごとしとったたい」
「また? 気ぃつけんといかんっちゃ」
そこで、内人の姿を見つけた彼女たちは声をかけてくる。
「あ! ミト」
「ミトくん」
「ミト! どこみてるの?」
言って胸のあたりを両腕で隠した。
「ああ」
その返事に、咲良も恥ずかしそうに胸を隠す。
「もう、ミトくん、どうしてそんなにえっちになっちゃったんですか?」
「やっぱり? やっぱりこいつはそんなこと考えてたの?」
また、がるると唯依が吠える。
「ああ」
「開き直らないでください」
咲良も抗議した。二人、恐ろしい獣を前にして抱き合うように身を寄せた。双子的シンクロニシティだ。そんな二人に内人は無言で近づく。
「ちょっとミト? なに? なんか怖い!」
「ミトくん?」
その様子に、二人はさらに身を寄せ合った。と、内人が手に持った傘を唯依に差し出した。
「え?」
思わず唯依がそれを受け取ると、内人は一目散に家に向かって走り出した。
「ちょっと! ミト? 濡れちゃうよ!」
「ミトくん! 風邪ひいちゃいますよ?」
二人の叫びを置き去りにして、内人は雨の中を駆けていく。そしてもう見えなくなった。残された二人はお互いを見て、彼が消えていった方を見た後、呟いた。
「ありがとう……」
湯船に浸かりながら咲良は唯依に話しかけた。
「今日のミトくん、ほんにむしゃんよかっと?」
「えっちぃとこさえなければねぇ」
「そげんこと言って、唯依ちゃん、くらっときたとよ?」
「な? せからしか!」
体を洗い終わった唯依が咲良のいる浴槽へと入ってきて、目の前の胸を揉みしだいた。
「あん……。ちょっと? なにしとっと?」
咲良は突然のことに思わず声を上げる。唯依は無言でその胸を揉み続けた。
「唯依ちゃん? はらかくよ?」
ぽつりと唯依が言葉を零す。
「咲良だってむしゃんよか思ったっと?」
手が止まった。本当の静寂が二人の間に流れる。改まって唯依が続ける。
「咲良もミトのことかっこいいって思ったでしょ? ミトのこと好きでしょ? どうしてなの? どうしてわたしとミトの間を取り持つようなことしようとするの?」
咲良は答えない。答えられない。その様子を見た唯依は、
「先あがるっちゃ……」
またぽつりと言い捨てるように呟いて浴室から出ていってしまう。残された咲良はその背中を、シルエットを見つめながらぽつりと呟いた。
「ごめんね……」
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