第10話 経過

「え? 伊坂先生、結婚したの? K商事の篠田さんと?」


 翌週、伊坂は瀬尾の執務室を訪ね、結婚したことを報告した。ボス弁である瀬尾良明は、さも意外だという反応を示した。


「佐伯市長みたいに若い人と結婚するのかと思ってたけど。でもいいね、落ち着いた大人同士で」


「それがそうでもなくて、子どもが」


「できちゃった?」


「いえ、生まれまして。八か月の早産でしばらく病院にいますが、今のところ落ち着いています」


 伊坂がそう伝えると、瀬尾は驚き、心配そうな顔をし、それから笑顔になり、伊坂を祝福した。


「そう。大変だったね。でも大丈夫なら良かった。おめでとう。今のうちに、篠田さんと二人の時間を楽しんでおくといいよ。赤ちゃんが家に来たら生活はめちゃくちゃになるから」

  

 生まれてしまってからの入籍とはおかしな順序で、まさか伊坂がこんなことをするとは、と瀬尾は内心驚いていた。


 おそらく篠田さんが原因だな。


 机を挟んで椅子に座っている伊坂はいつも通り落ち着いた様子だが、葛藤はあったに違いない。


 まあでも本人は納得しているようだし、深く追求しない方がいいだろう。


 それに、家庭を持つことは伊坂にとってプラスに働くに違いない。伊坂は優秀だが、仕事ばかりしていて人間的な面白みに欠けるところがある。子どもは理不尽だ。振り回されるのはいい経験になるだろう。


「性別はどっち?」


「女です」


「そう。女の子は可愛いよ」


 瀬尾には娘と息子が一人ずついた。二人とも大学生。息子との関係は良好だったが、やはり娘の可愛さは特別だなと、瀬尾は常々思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る