名前-5

 名前を決めるのは、伊坂が思っていたよりずっと難しかった。画数が問題だった。漢字や響きが良くても、姓名判断の結果が悪い名前が意外に多い。占いなど全く信じていなかったが、「凶」と出た名前を付けるのはさすがに気が引けた。


 予定では、理世が眠っている三時間の間に候補を二十くらい絞れるだろうと思っていたのに、全く進まなかった。ずっとリビングのソファで命名サイトを見続ける羽目になった。


 寝室のドアが開く気配がして振り向くと、理世が立っていた。


「どう?」


「進んでない」


「あら」


 理世が隣に来て座ったので、姓名判断のサイトを見せてやる。


「理世の名前は画数ばっちりなんだけど」


 伊坂は、「伊坂理世」と入力して「診断」をクリックした。

 

 伊坂が全く躊躇せずに入力したのを見て、理世は不思議な感じがした。あれほど結婚するのを嫌がっていたのに、結婚も子供のことも、すっかり受け入れている様子なのだった。


「そこ、画面の右下に『伊坂と相性の良い名前』って表示されてるじゃない。そこから決めれば?」


「変わった名前ばかり沢山だよ」


 表示された名前を見ると、確かに、今どきの名前が多かった。


「すごいねこの名前、月に兎でルナ? 泡姫でアリエル?」


 噂には聞いていたが、日本の名付けはすごいことになっていた。



 伊坂が昼食を買いに行っている間に、理世はまた母乳を絞った。そして伊坂が戻ってくると、一緒にサンドイッチとスープを食べ、その後は二人でベッドに楽な姿勢で座って名前を考えた。


 午後の間中かかって出した結論は「友里」だった。「ゆり」という響きが可愛いし、姓に合っている。


 本当は他の漢字―例えば優里や有理にしたかったが、画数があまり良くなかった。それで、「友里」なら友達が多くなりそうだし良いと思う、と二人とも妥協した。


 名前が決まったら、急に篠田ちゃんの――友里の存在感が増した気がした。


「今ごろお食事の時間かな」


 理世が時計を見て言った。

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