第14話 悲しみの末に
「な・・・・」
見えなかった・・・
キツナはあの時、確か目の色が変わって・・・地を蹴った。
そこまではわかるんだ。だが、その風景を脳が処理するのを最後に、一機に処理が追いつかなくなった。次の瞬間、キツナの姿は視界から消え、次に視界に現れた時には既に、レントがキツナの一発を喰らったところだった。
「レントぉ!!!」
レントは飛ばされ地面に腑っしたまま動かない、その場で唯一動いていたのはレントの腹部から流れ出た赤い液体だけだった。
「・・・血?」
僕はその時、有り得ない物を見るような目でそのレントの姿を見ていただろう。その僕の姿を見てキツナはさらに言葉をつづけた。
「おかしいな・・・俺はミネの方で斬ったはずなのにな。いや、正確にはたたきつけたか・・。」
キツナがそういう。ミネというのは知っている通り刃がない部分の事を指す。刃がない、つまり斬撃とは全く違う攻撃なのだ。それなのに・・・
斬ったかのように血が出る・・・。
どういうことだ?そう考えていた僕がたどり着いた答えはとても信じがたい、そしてその答えを導きだした僕でさえ認めたくないものだった
「早く振りすぎて・・肉が千切れた・・?」
そんな・・・どんだけの力で・・・
「よそ見してる暇はないんじゃない?次はお前の番だよ。」
ごうっ!!と旋風に近い風が僕の肌に直撃する。早すぎる太刀筋を喰らわずに済んだのはこの赤い電網のおかげだろう。
「ご主人くん、戦闘において驚く事は多々あるだろうけど、そこで立ち止まると命は落としかねないんぜ。」
そういうメイトの目には迷いの光はない。いったいメイトにはどれだけの戦闘経験があるのだろうか。確かに、メイトの言ったことは正しい。レントは防御能力も使えているはずだ。死にはしないだろう。
しかし、裏を返せばキツナにはそれほどの攻撃力があるのだ。防御能力を貫いて身体にダメージを与えたのだ。生身の僕が当たれば無事では済まないことくらいはわかっていた。
「メイト、力を貸してくれ。こいつは僕が止める・・・っ」
「了解なんだぜ。」
ボウッと僕を中心に紫色の光が迸る。僕の左目はメイトの赤色に染まっていることだろう。
「はぁっ!!!」
右手に力を込め、薙ぐ動作をキツナに向かって行う。瞬間、手から逃げていくかのように赤い閃光が射出され、歪な軌道を描きながらも適格にキツナの元へとその尾を伸ばしていく。
「甘いねっ!」
だが、キツナはそれを簡単に避ける。剣士という称号を背負った少年。その導体視力は伊達ではなく、研ぎ澄まされた心技体の一致が攻撃力を常に最大にまで伸ばし、重い一撃が飛んでくる。
一閃。それこそ雷かと見間違えるようなスピードでキツナが突きを放つ。その音速に達するレベルの攻撃は避けられないだろう。
そう、"普通の人ならば"だ。
僕は他の人間より、いや、妖怪も含めて僕は生物の持つ五感がずば抜けて高い。
たとえ常人が反応できないスピードだろうと、僕ならば簡単に反応できる。神経を集中させれば尚更の事だろう。
だから僕にはこのキツナの攻撃も避けられるのだ。
「なっ・・・お前、この攻撃が見えるのか・・・」
驚きの声をキツナは紡ぐ。だが、キツナも戦闘経験があるのだろう。驚いても攻撃の手は止めず、体を捻りながら幾度となく怒涛の斬撃を放ってくる。
さすがのスピードに圧感される、僕も視力を駆使して避けているがラストの突きで頬が切れ、生暖かい血が頬を伝った。
「ちっ・・・拉致があかないな・・・っ」
このままじゃいつかは重い一撃をもらう事になるだろう。だから一つの可能性に僕はすべてをかけよう・・・。
剣に向かって電撃を当ててキツナに伝わせる。痺れたその時を狙って一気に決めてやろう。
「避けるだけじゃ勝てないよ・・・人間。」
「そうだな、この避け方じゃあ君には勝てないよ。」
「ならはやく・・・死ねよ!!」
キツナの刀が横に薙ぎ払われる。無論、そんな攻撃が僕に当たるはずはなかった。
「でもこの避け方なら君に勝てるね・・?」
伏せてその攻撃を避けた僕は地面に手を突付き、足をキツナの鳩尾向かって蹴りあげた。
「弱点体術!水月狂乱!!」
バグン!!と聞いたこともないような鈍い音がキツナの体から蹴り上げた僕の右足に震え伝わる。霊飼い術師専門学校で極めたこの弱点体術はヒットすれば大ダメージを与えることができるレベルの技だ。
「ごふっ!!が・・・はっ!!」
「避けて打つ。この避け方なら君にも勝てるだろう・・っ」
続けて僕はキツナの鳩尾に向かって正拳突きを繰り出す。鳩尾に二発連続の攻撃を加えることにより、苦しみに苦しみが重なり立っていられなくなるだろう。
「がっは・・・あ・・ぐぁ・・・」
「少年の君をこんな風にするのは僕は嫌いなんだ。なるべく穏便に済ましたいのが僕の性分なんだよ。」
息を短く吸って一言。
「まだ、続けるかい?」
電撃を使う間もないまま、その言葉を最後に、キツナは苦しみから逃げるようにその意識を手放した。
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